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漫画家・村上もとかさんがいまさら『六三四の剣』を語るワケ

タリスカー・ゴールデンアワー24回(前編)

村上: ぼく自身は剣道の経験ないんですが、父が茨城の鹿島の生まれでして、あの辺りはみんな、小さいときから剣道をやるのが当たり前だったらしいんです。まあ、戦前の話ですが。

父は中学は水戸で、水戸には有名な道場がありました。そこに通った父は國學院大學に行くんですが、大学までずっと剣道部でやっていたので、むかしの剣道の話を父が面白おかしく語ってくれて、その影響を受けたんだと思います。ぼくも中学生になったら剣道をやりたいなと思っていたら、うちの地元は田舎すぎて剣道の道場すらなかった。

ボブ: どちらだったんですか?

村上: 神奈川県の大和市です。大和のほうには道場があったんですが、ぼくの住んでいたところはそこからさらに外れた田舎の町だったので、小中学校ではやりはぐれた感じでしたね。それで漫画家になってから、基礎の基礎だけはちゃんと学んでみようと思って、大人でも入れるというので、近くの少年剣道教室みたいなところに入れてもらいました。

ボブ: そのとき、上段の構えもやられたんですか。

村上: いえいえ、まずは中段の構えから習いました。

ボブ: じつはぼくも六三四をまねて上段の構えをして、先生に怒られました。「それは上級者の構えだから、ボブには100年早いよ」と最初のころよく言われましたね。

村上: でもむかしの剣士はそんなことは関係なしに、自分は上段が好きだと思ったら最初から上段ではじめたと思いますけどね。いまの教育剣道になってからは、中段が基本です。小さい子にはまず上段なんてやらせないですし、もちろん突き技なんかも教えないんですけど、それじゃつまらないということで、漫画の上ではすべてアリにしたんです。

シマジ: 凄みがあってこその漫画ですもんね。突き技で相手がぶっ倒れるところは迫力があります。

ボブ: 六三四は体当たりも凄いじゃないですか。対戦相手が場外にふっ飛ぶような体当たりは凄く格好いいなと思いました。じつはぼく、アメリカの大会で体当たりが強すぎて、反則をくらったことがあるんですよ。審判から「これは暴力だ」って言われて「いや、暴力じゃないです。ただの体当たりです」って抗議しましたけど、認められなかったです。

村上: ボブさんはいま何段なんですか。

ボブ: 五段です。筑波大学に通っていたころは二段で、卒業する間際に三段になりました。社会人で続けてやっていますと、普通に五段まではいけるんですけど、六段はなかなか難しいですね。

村上: へえ、ボブさんは筑波大学の剣道部だったんですか。あそこは東京高等師範学校の流れをくんでいて、いつも日本一位二位を争うような強豪です。『龍-RON-』の主人公の出身学校の京都の武道専門学校は戦前いつも東京高師に負けていたようですよ。「それが悔しくて悔しくて」という話を武専出身者から聞いたことがあります。

ボブ: はい。本当に全国でもトップレベルの選手たちと一緒にやらせていただいて、毎日、非常に鍛えられました。みんなすごく強いんです。

シマジ: 武道専門学校は京都に本当にあった学校なんですよね。

村上: ありました。戦後GHQによってつぶされた唯一の私立高等学校といわれています。

シマジ: 村上さんの作品のなかにはいつもドキッとさせられる展開があります。たとえば『六三四の剣』で、主人公の六三四の父親が試合中に命を落としますよね。それだけでも衝撃的なのに、未亡人になった六三四の母親が再婚します。それまでの少年漫画ではあり得ないことじゃないですか。

村上: それが話題になって、主人公の父親であり強烈なキャラクターでもある栄一郎を死なすなんてもったいない。十分、今後、親子鷹でやっていけるんじゃないか。子供たちにこんなショックを与えていいのか。おれが担当していたら絶対殺さなかった、という編集者もいたくらいです。

六三四の母親の再婚問題は、読者側からすると前代未聞のことだったでしょうね。「あんな素晴らしい旦那さんがいたのに再婚するなんて」という反発があるだろうと予想はしていましたが、亡くなった夫の魂をずっと弔いながら、息子の成長ばかりを愉しみにしている母親像がぼくは嫌だったんです。

六三四の母親は魅力的な女性です。だからこそ、もう一度自分で人生を切り拓いて生きるという決断をしてもらいたかった。再婚したからって、お父さんのことを永遠に好きなことは変わらないんですから。

シマジ: たしかに、実人生では再婚はよくあることですからね。読者の子どもたちも、そういうところにリアリティーを感じて引き込まれるのかもしれません。さて、タリスカースパイシーハイボールをお代わりして、他の作品についても聞かせてください。

村上: わかりました。タリスカースパイシーハイボールがあると、いつになく饒舌になってしまいますね。

〈⇒後編につづく〉

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村上もとか(むらかみ・もとか)
漫画家。高校2年生の時、「COM」の影響をうけ、漫画を描き始める。1972年、「少年ジャンプ」に『燃えて走れ』を連載して漫画家デビュー。82年『岳人(クライマー)列伝』で講談社漫画賞、84年『六三四の剣』で小学館漫画賞、96年『龍-RON』で同漫画賞、98年に同じく同作品で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞をそれぞれ受賞、NHKでドラマ化もされ話題を呼んだ。「スーパージャンプ」で連載した『JIN-仁-』は、2009年と2011年にTBSでドラマ化、2012年には宝塚雪組で上演された。2011年、同作で第15回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞。現在、「グランドジャンプ」で最新作『侠医冬馬』を連載中!
島地勝彦(しまじ・かつひこ)
1941年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。柴田錬三郎、今東光、開高健などの人生相談を担当し、週刊プレイボーイを100万部雑誌に育て上げた名物編集長として知られる。現在はコラムニスト兼バーマンとして活躍中。 『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)、『バーカウンターは人生の勉強机である』『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス)、『お洒落極道』(小学館)など著書多数。
ロバート・ストックウェル(通称ボブ)
MHDシングルモルト アンバサダー/ウイスキー文化研究所認定ウィスキーエキスパート。約10年間にわたりディアジオ社、グレンモーレンジィ社、他社にて、醸造から蒸留、熟成、比較テイスティングなど、シングルモルトの製法の全てを取得したスペシャリスト。4ヵ所のモルトウイスキー蒸留所で働いた経験を活かし、日本全国でシングルモルトの魅力を面白く、分かりやすく解説するセミナーを実施して活躍しています。