大病を患い、死にかけたサブカル界の帝王を救った「ある女優の一言」

杉作J太郎の「人生最高の10冊」

ヤクザ映画に痺れて

今回選ばせて頂いた10冊は、いずれも僕が人生の岐路に立った時に、行き先を指し示してくれた本です。これらの作品群がなければ、僕はどこかで潰れていたでしょう。

それだけ僕の人生には辛い出来事が多かったのですが、危機は早くも中学時代に訪れます。

成績不良により私立中学を退学になってしまったのです。「この先どうやって生きていこう」と思い悩んでいた時に観た『仁義なき戦い』に衝撃を受け、脚本『笠原和夫シナリオ集 仁義なき戦い四部作』をすぐに購入しました。

実話を元に、戦後広島のヤクザ抗争の実態を描いた、東映ヤクザ映画の傑作ですが、それまで観てきたあらゆる映画と違いました。

 

圧倒的なリアリズムと言いますか、起承転結のような物語の型がない。色んな考えを持った人間たちが、ただバラバラに行動する集団劇なんです。

一本気の主人公・広能は、その渦中に巻き込まれ、どんどんはぐれていってしまうのですが、退学直後の僕は広能に自分を重ね、はぐれたとしても強く生きていけるんだと勇気を貰いました。

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笠原さんの脚本は、映画以上に人間のぬくもりが感じられない恐ろしい内容で刺激的でした。登場人物を突き放すかのように、淡々と残酷な事実を突き付け続ける。もはや脚色は必要ないんですね。あのクールな展開と文体に魅せられ、僕もシナリオライターになることを決意しました。

同時期に寺山修司さんも僕の人生の師でした。「杉村春子の芝居なんかより、パチンコ屋の用心棒が自分の人生を語った方が面白いと思うね」なんてことを言っていて、痺れましたね。学校の先生は絶対そんなこと言いませんよ。

書を捨てよ、町へ出よう』は、そんな寺山さんの雑文集のような本です。「みんなが後生大事にしている日常ってものが、いかに無価値か」という通底するテーマがあるにはある。ただ、どこまでがリアルでどこからがフィクションなのか分からない独特の表現をされる方ですし、僕はその創造力に憧れた訳ですけど、正直理解できない部分もありました。

でも、「誰にでも分かりやすいように書かれた物なんて全て嘘だ。騙されてたまるか」というマインドで生きていた僕は、その難解さに惹かれました。少しでも分かるようになれたら、嬉しいですしね。逆に分かりすぎたら寂しくなったり、その辺が複雑なんですが。

童貞だから分かった痛み

続いては、反対にとても分かりやすくて、ストレートに胸に突き刺さった作品。松本零士さんの『男おいどん』です。“おいどん”こと大山昇太は、中学卒業後に九州から上京し、昼はバイトしながら夜間の高校に通っている青年。さらに言えば、男らしく生きようと懸命に生きる青年なのですが、これが踏んだり蹴ったりなんです。

同じ下宿に住む男子たちは、みな背も高くてハンサムなのに、おいどんはチビで貧しく、いつもパンツとランニング姿。時折美女と心を通わせることもあるのですが、彼女たちは悉く他の男子のものになっていく。僕もモテずに童貞喪失が遅れたクチですから、布団の中で涙を流して歯噛みする彼の悔しさは痛いほどよく分かる。

まるでいいとこのないように見えるおいどんですが、恵まれてる人たちよりも「生きている」という実感に溢れている。それに、おいどんは明らかに松本先生自身が投影されています。ということは、あの悔しさは、のちに『宇宙戦艦ヤマト』に繋がっていくということ。人間があそこまで飛翔するには、バネとなる辛い時期が必要なんだと考えさせられました。

おいどんとは、対極のところにいるかのような美女・吉永小百合さんからも、強い影響を受けました。

こころの日記』は、吉永さんが人気絶頂だった10代後半に書かれた日記集なのですが、調子に乗ってるような記述がまるでない。それどころか、醜いおいどんと同じように、実は物凄く悩み苦しんでいるんです。

可愛くて何でも揃っていると思っていた吉永さんが、常に「私は本当にこれでいいのか」と自問しているんですね。

僕はこれを読んだ20歳頃、病名の分からない大病を患いまして、生死の境を彷徨ったことがあるんです。「30歳までは生きられないだろう」と大学病院の先生に言われてましたから、「毎日毎日を誠実に生きよう」という吉永さんの言葉をメモして噛み締めてました。

イソップ童話に出てきたとしても聞く気になれませんが、あの吉永さんに言われると聞かざるをえませんよね。

▼最近読んだ一冊

「'14年に亡くなった則文さんの奥さまが企画。則文さんへの深い愛情を感じる一冊。収録されている未発表のエッセイは何気ない雑文といった感じで、この一冊の中に則文さんが生きているような気がしてくる」

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