翼竜にあらず! 前代未聞の「空飛び恐竜」その名前はわずか1文字!

恐竜大陸をゆく「奇翼龍」編!
安田 峰俊 プロフィール

豪州の科学雑誌「COSMOS」に掲載された記事(2017年5月29日付け)によると、河北省北部の地層は遼寧省ほどは恐竜化石を豊かに産するわけではないが、地理的な条件ゆえに、遼寧層の地層よりも羽毛や軟組織が良好に保存されている場合がある。

事実、イの発見地周辺の山や谷は化石売却を目的にした地元の農民の発掘者たちによって穴だらけになっているそうである。

イの化石はこうした経緯で掘り出されたため、天宇博物館に運ばれた時点ではバラバラであり、しかも岩石に覆われていた。パッと見ただけでは、この化石が前代未聞の特徴を持つ新種の恐竜だとはわからない状態だったのだ。

手首の先に見つかった謎の骨

2009年、そんなイの化石の特徴に気付いたのは、中国の著名な恐竜学者である徐星(Xu Xing)だ。イの化石には羽毛が生えていた痕跡もあったが、徐星はイがどうやら他の小型獣脚類の羽毛恐竜たちとは違った特徴を持っているらしいことに気付く。

やがて2013年、徐星は自身のスタッフである丁暁慶を天宇博物館に派遣して化石のクリーニングをおこなわせ、頭蓋骨や手の特徴から、この化石がスカンソリオプテリクス科の未知の恐竜であることを確信するようになった。

ちなみにスカンソリオプテリクス(Scansoriopteryx:擅攀鳥龍。もしくはEpidendrosaurus)自体も、2002年に遼寧省で発見されたばかりであり、研究史のうえで新顔の恐竜だ。

スカンソリオプテリクスもまた、イと同じく長い第3指を持っていたのだが、従来の研究ではちょうど哺乳類のアイアイと同じように、木の穴のなかに隠れた昆虫を捕食するために指が長く進化したのではないかと見られていた(本ページ掲載の復元図はこの仮説にもとづく)。

スカンソリオプテリスクスカンソリオプテリスクの復元図 Illustration by Roman Garcia Mora / Stocktrek Images

ところがイの場合、もうひとつ変な特徴が見つかった。

手首にあたる部分から先に、他の恐竜では見られない長さ13センチメートルほどの棒状の骨が伸びていたのだ。中国恐竜研究の第一人者である徐星をもってしても、この骨の存在は理解を超えたものだった。

だが、やがて徐星と中国科学院の同僚でもあるアルバータ大学教授のコーウィン・スリヴァン(Corwin Sullivan)が、この奇妙な棒状の骨が、モモンガの皮膜を支える軟骨と似た役割をもっていたのではないかと指摘することになる。

この恐竜は、鳥類や翼竜とは別の方法で空を飛ぶ、前代未聞の空飛び恐竜である可能性が出てきたのだ。