イの復元図 Illustration by Emily Willoughby

翼竜にあらず! 前代未聞の「空飛び恐竜」その名前はわずか1文字!

恐竜大陸をゆく「奇翼龍」編!
ノンフィクション作家、安田峰俊氏が「中国」「古生物」の2つのお題でサイエンスルポをやるという無茶ぶり連載「恐竜大陸をゆく」。今回は世界的大発見の内幕をガッツリ掘り下げました!

いわゆる鳥類以外で、空を飛ぶ恐竜はいるのか──?

答えはおそらく「イエス」だが、質問を聞いてプテラノドンやケツァルコアトルスなどの翼竜の姿を思い浮かべた人は、残念ながら不正解である。

翼竜は恐竜と近縁な生き物だが、三畳紀に恐竜と共通の祖先から分かれて独自の進化を遂げた爬虫類であって、「恐竜」ではないためだ。

では、私が今回紹介する「空飛び恐竜」とは何者なのか?

この恐竜の名前は、カタカナ表記ではなんと1文字。「イ」(もしくは「イー」)である。

学名はYi qiで、中国語での漢字名は奇翼龍(Qí yì lóng)だ。スカンソリオプテリクス科(Scansoriopterygidae)というあまり研究が進んでいない小型獣脚類の仲間であり、非常に謎の多い生き物である。

イは約1億6000万年前、ジュラ紀の中期か後期ごろに生息していた。大きさはカササギと同じかそれよりすこし大きい程度で、体重は380グラムほど、両腕を広げた長さが60センチメートルほどだと見られている。

イイの復元図 Illustration by Nobumichi Tamura / Stocktrek Images

手首からは他の獣脚類には見られない棒状の骨が(おそらく胴体側もしくは下方に向かって)伸びていたほか、長い指骨を持ち(特に第3指が長い)、これらの骨の間には膜状の組織の痕跡が確認された。

イは鳥類とも翼竜とも異なる形態の、どちらかと言えば哺乳類のコウモリにやや似た翼(皮膜)を持っていたと見られている。ただし、おそらくはコウモリのように羽ばたくことはできず、滑空する形で空を飛んでいたようだ。

もとは盗掘で見つかった

イの発見は2007年のことである。北京の東方150キロメートルほどの場所にある河北省青竜満族自治県木頭凳鎮に住む農民・王建栄が、近所の採石場で見つけた化石を、山東省にある世界最大規模の恐竜博物館・天宇自然博物館に持ち込んだのだ。

天宇自然博物館天宇自然博物館(公式サイトhttp://www.tynhm.com/ より) 

もっとも、この発見は「化石好きの農民の驚きの大発見!」といった美談ではなかった。

過去の本連載でも紹介した、シノサウロプテリクスが遼寧省で見つかった経緯と同じように、化石売却で経済的な利益を得ることを目的とする盗掘者的な化石ハンターによるものだったのだ。