ロボットに「感情」を生じさせる方法…小説家が考える「4つの条件」

「笑うロボット」はこうして可能になる
河合 莞爾 プロフィール

その答えは、「感情」とは、「リマインダー」だからではないだろうか。

生物は、自分の身に訪れているのが危険な状況なのか、それとも歓迎すべき状況なのか、それを評価し、その評価を「感情」によって記憶に深く刻み込む必要がある。もちろん、自分が生存する可能性を少しでも高めるためにだ。

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ロボットに「感情」が生じるための4つの条件

この「感情」を、ロボットに生じさせるにはどうすればよいのか──?

ロボットに笑顔や泣き顔を作らせて、「ウレシイデス」「カナシイヨ」「オコッタゾ、プンプン」などという台詞を言わせても、「感情」が生じたことにはならないだろう。

人間が進化の中で獲得した「感情」という機能をロボットが手に入れるためには、おそらくロボットもまた「人間と同じ進化の道」を歩む必要があるのではないか?

ロボットが工学的に人間の形態を模倣する「ヒューマンミメティクス(人間模倣)」と同じく、プログラムであるAIにおいても、勝手に名付ければ「イヴォミメティクス(進化模倣)」とでもいうべきシミュレーションを行う必要があるのではないだろうか?

人間は感情を手に入れるのに数十億年もかかったが、ロボットならこの進化をシミュレートすることによって、あっという間に到達することができるだろう。

そして、人間が「感情」を得たプロセスをロボットに辿らせるとしたら、あらかじめインプットされるべき条件は、以下の4つだと推測する。

①寿命
②DNA
③遅延
④忘却

①、寿命。

生物は「生への拘泥」があるからこそ「死への恐怖」が生まれる。よって、生物が手にした最初の感情とは「恐怖」であったはずだ。対して、生存のために歓迎すべき状態が「歓喜」であり、その合間がいくつもの「感情」に細分化されていったはずだ。

ロボットが「不死」のままであるならば、いつまでたっても思考にはいっさいの波風が立たないのではあるまいか。だから一定の「寿命」をインプットすることが、まず大前提だと思える。

②、DNA。

生物が生に拘泥するのは、DNAがあるからだ。DNAの目的こそが「生き延びる」と「コピーを遺す」なのだ。だから、「寿命」を設定したロボットにDNAを与えれば、ロボットは最初の「感情」である「恐怖」を、まず手にするのではないだろうか。

では、「ロボットのDNA」とは何か? 私は、何かの物質やプログラムではなく、「生き延びろ」「コピーを遺せ」という命令そのものだと考える。

拙作『ジャンヌ』でも重要な役割を果たしているが、かのSF作家アイザック・アシモフが考案した「ロボット工学三原則」というものがある。

第三原則 ロボットは、第一原則及び第二原則に反するおそれのない限り、自己を守らなければならない。

「自己を守らなければならない」という条文が「生き延びろ」という命令だとすれば、この第三原則は不完全ながら「ロボットのDNA」なのかもしれない。

③、遅延。

生物では、神経の情報伝達速度の遅さが「意思」と「感情」を誕生させることになった。事象を見て認識するまでに、人間は0.5秒のタイムラグを要する。突き詰めれば、この危険を回避するために「意思」と「感情」を創作したとも言える。

ならば、ロボットの感覚センサーにも情報伝達に遅延を持たせれば、ロボットも遅延による生存の危機を回避するために、「意思」と「感情」を生成するかもしれない。

そして④、忘却。

生物は「忘却」するがために、生命の危機に瀕した体験や、生存に有利な僥倖を得た体験を忘れてしまう。だから、これらの体験を忘れないように、強く何度でも繰り返し印象づけて、次に同様の状況に遭遇した場合、無意識に素早く安全な行動が取れるようにならねばならない。

前述の通り、この「リマインダー」が「感情」だと思うのだ。

この「忘却」をロボットに置き換えるとしたら、本来は絶対に消去されないロボットの記憶を、「一定期間でランダムに消去」することになるだろうか。