ロボットに「感情」を生じさせる方法…小説家が考える「4つの条件」

「笑うロボット」はこうして可能になる
河合 莞爾 プロフィール

①我々が事象を認識できるのは、その事象の発生の「0.5秒後」である。
②我々が身体を動かそうと思った時、脳は「その0.35秒前」から準備を始めている。

たとえば、あなたがプロ野球の選手だとする。ピッチャーの手元が狂い、打席にいるあなたの頭に向かってボールを投げた。あなたがそれを認識できるのは0.5秒後だ。時速150kmのボールは0.45秒でキャッチャーミットに届くから、本来ならあなたはボールをよけることは絶対にできない。頭に当たって救急車だ。

しかし、ボールが投げられたのを認識する0.35秒前に、あなたの脳は無意識によける準備を始めている。よってあなたは、0.3秒を使ってボールをよけることができる──。

リベットはそう言っているのだ。

ベンジャミン・リベットベンジャミン・リベット

また、ポルトガル系アメリカ人の脳科学者アントニオ・ダマシオ(1944~)は、リベットよりもさらに一歩進んで、人間の「自由意志」そのものを否定している。そして「感情」についても、専門である脳障害・損傷患者の研究から「身体反応を脳が受け取り、感情を生みだす」と主張している。

さらにダマシオは、17世紀のオランダの哲学者バールーフ・デ・スピノザ(1632~1677)が、350年も前にこの事実を喝破していたと言う。スピノザは死後刊行された哲学書『エチカ』(1677刊)の中に、こんなことを書いていたからだ。

「精神の中には絶対的な意志、すなわち自由な意志は存しない」
「精神の自由な決意で話をしたり、黙っていたりその他いろいろなことを為すと信じる者は、目をあけながら夢を見ているのである」

(バールーフ・デ・スピノザ『エチカ』より)

もちろん、「自由意志などない」という主張を否定する科学者も多い。特にダマシオは、名前からして世間をダマシてるんじゃないかという気もする。

しかし、もしリベットやダマシオ、それにスピノザの言うことが正しいとすれば、「人間の行動はすべて無意識に行われていて、意思や感情とは関係ない」ということになる。

では、「意思」や「感情」とは何なのか?

それは「なぜ自分がそう行動したか」を自分に説明するために、「脳があとから創ったストーリー」だというのだ。

先のボールをよけた話で言えば、「ボールが来たのを知った」→「恐怖を感じた」→「よけた」という順番だったと思うだろう。

だが実際には、「よけた」→「ボールが来たのを知った」→「恐怖を感じた」という順番だったのだ。

脳が順番を入れ替えてストーリーを創り、あなたを騙したのだ。

つまり、生物は生き延びるために、無意識のうちに危険回避行動を取るようあらかじめプログラムされている。しかし、知能を持った生物は「なぜ自分はそうしたのか?」と混乱してしまう。だから「意思」や「感情」が後付けされるのだ。

しかし、「自由意志はない」という前提からは、一つの疑問が生じる。

それは、前出のボールをよける一連の流れで言えば、「怖いという『感情』は、果たして後付けする必要があるのか?」という疑問だ。

身体は無意識にボールをよける。「危険を察知したからよけた」と、自分に説明するストーリーもできている。じゃあ、「怖い」という感情などなくても、あなたは危険を回避できるではないか。

何のために、わざわざ「怖い」という感情を創り出して、後付けしなければならなかったのか?