〔PHOTO〕iStock

問題行動をくり返す人の治療に役立つ「シンプルな方法」

「ハームリダクション」という思想

「ハームリダクション」の思想と実践

ピエール瀧さんのコカイン使用、そして清原和博さんの覚醒剤使用についての報道を、興味深く注視していました。

なぜなら、この論争の中に、私が「日本的ナルシシズム」という言葉を使って説明してきた社会病理を克服する道が見えるように思えたからです。

以前に私は、現代ビジネスに『日本人の「心情」はすでに大震災前に戻ってしまったのかもしれない』という記事を寄稿しました。

その中で、社会学者の中根千枝の『タテ社会の人間関係』から「とにかく、痛感することは、「権威主義」が悪の源でもなく、「民主主義」が混乱を生むものでもなく、それよりも、もっと根底にある日本人の習性である、「人」には従ったり(人を従えたり)、影響され(影響を与え)ても、「ルール」を設定したり、それに従う、という伝統がない社会であるということが、最も大きなガンになっているようである」という言葉を引用し、この問題を乗り越えることが、隘路にはまってしまったかのような日本社会が、再び前進をはじめるための鍵であることを論じましたが、その具体的な道筋を示すことができませんでした。

しかし、今回このような物質使用障害の問題と関連して、やはり精神科医の松本俊彦先生らが説明される「ハームリダクション」の思想の中には、この日本社会の隘路を越える道が示されていると感じました。

例えばコカインを使用したピエール瀧さんの作品の上映を制限せず、作者に過剰な社会的制裁を課すことを制限するべきだ、という主張に対して、「社会に悪影響を与える悪い人を不適切に甘やかす行為だ」と感じる人もおられるのではないでしょうか。

リベラルっぽい主張をする人の、何でも既存の権威に逆らうこと、個人を重んじ過ぎて集団や社会の秩序の維持に無関心な様子への反感も、ずいぶんと強まっているように感じます。そのような人は、ピエール瀧さんに厳しい処遇を社会が行うことを求めているようです。

私はそのような意見にも一部理解すべき点があると考えます。

しかし今回は、「ハームリダクション」と呼ばれている思想と実践が、意外と、功利的な計算を含んだ上で実益の確保もしっかりと視野に収めている、したたかな面があることを論じたいと思います。

 

ほめる介入を続けること

私は精神科の一開業医に過ぎませんが、「ハームリダクション」について学んで、アルコールをはじめとした物質使用障害の患者さんへの関わりについて、幅を拡げることができたと実感しています。

「ハームリダクション」を支える思想の一つは、行動療法の考え方です。そこには、人間の心理についての、元も子もないような冷徹な一つの理解があります。

「人間は、他の人から注目される(ほめられる)行為は、増えていく」 
「逆に、他の人から無視される行為は減っていく」

この法則については、「物は高い所から低い所に落ちる」と同じような、自然法則のように理解します。

その法則を、治療する方の立場から見て、「問題行動」をくり返す人に適応していくのが、行動療法の発想には含まれているようです。