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樹木希林さんは生前、ここまで準備してあの世に旅立った

相続の手続きもすべて終えていた

「死後の手続き」に関しては、彼女の右に出る者はいない。遺言書から二次相続、相続税圧縮の特例に、生前贈与まで、あらゆる対策を講じていたからだ。生き方上手なあの人は、死に方上手でもあった。

2ヵ月で名義変更が終了

「母は病気があって、死というものが目に見えていたので、相続にかぎらず、いろいろなことを一つ一つ整理しようとしていたのは確かですね」

本誌記者にこう語るのは、樹木希林さん(享年75)の長女・内田也哉子(43歳)である。

昨年9月15日に亡くなった希林さんは、実に周到に、自分の死後手続きの準備を済ませ、あの世に旅立った。不動産オーナーとして知られる希林さんから部屋を借りていた人物が証言する。

「いつも翌月の家賃を大家である希林さん指定の口座に振り込んでいました。亡くなって2~3週間後に、次の大家は也哉子さんであることを通知する文書が届き、振込先も書かれていました。迅速な対応だなあと思いましたが、しっかり準備されていたのでしょうね」

そして、その2ヵ月後の11月下旬には、都内の法務局で、ある手続きが矢継ぎ早に行われている。希林さんが所有していた不動産の名義変更である。

希林さんは、都内に大量の不動産を所有していたが、それらの登記が一斉に変更されたのだ。

通常、相続による登記変更は、遺産分割協議不動産評価額の確定、それに戸籍謄本などの取得に時間がかかる。税理士法人ファミリィ代表の山本和義氏はこう説明する。

「死後、これだけの短期間で相続登記ができるということは、死後に遺産分割協議を行ったのではなく、希林さんが作成していた遺言書に基づいて、遺産分割が行われたということでしょう。『公正証書遺言』が作成されていた可能性が高い」

遺言書で作成されるのは、主に自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類がある。気軽に書ける自筆証書遺言と異なり、公正証書遺言は公証人が作成し、公証役場で管理されるため、信頼性が高い(ただし手数料がかかる)。

そのため家庭裁判所での検認手続きも不要だ。不動産の名義変更手続きでも、これさえあれば、相続人全員の印鑑証明書が不要になり、遺言で指定された相続人の書類だけで事足りることも多い。

遺族の負担を考え、希林さんは公正証書遺言を遺していたのだろう。

希林さんがはじめて遺言書を書いたのは、亡くなる14年も前。'04年秋に乳がんと診断され、翌年1月に右乳房摘出手術を行ったときのことだ。希林さんは、当時の記者会見でこう語っている。

「年末にバタバタするのもなんだし、万が一のことを考えて、字が書けるうちに不動産やら私の持ちものを誰にとか、やることをやっちゃおうと思って。あ、これなら大丈夫。死ねるなと思った」

その後、'08年には腸、副腎、脊髄に転移し、'13年には全身がんと宣告されたが、恬淡とした生きざまを見せた根拠のひとつは、遺言書の安心もあったのかもしれない。

遺言書を書いた'04年時点で、希林さんの推定年収は1億1719万円(高額納税者名簿による推定)だった。その後も映画やCMなどに途切れることなく出演を続けてきた希林さんの資産は多額だ。

とりわけ、「住宅情報誌を読むのが趣味」というだけあって、都内で10件近い不動産を所有していた。その時価総額は10億円を優に超える。希林さんは、どういう遺言書を書いたのだろうか。