来たる“移民社会化”に向けて、私たちに必要な2つの「発想の転換」

あなたも「移民」である
塩原 良和 プロフィール

あなたも“migrant”である

そもそも、「移民」と「日本人」はどのように区別できるのか。日本政府は今回の入管法改正を「移民政策」ではないと強調する。入国当初に在留期限を設けることなく、家族とともに移り住む人々を「移民」と呼ぶならば、日本はそのようなやり方で外国人を受け入れていないから、という理屈である。

だが、この「移民」の定義は国際的にみれば狭い。たとえば国際移住機関(IOM)は、「移民(migrant)」を「当人の⑴法的地位、⑵移動が自発的か非自発的か、⑶移動の理由、⑷滞在期間に関わらず、本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」と定義している。

つまり“migrant”とは「異なった場所に移動する経験」をした人のことであり、それが国境を越えた移動である必要はない。この定義に基づけば、国内で他の場所に引っ越しをした人も“migrant”である。

これは極論に思えるが、実は日本にもすでにある発想である。“migrant”を「移民」ではなく「移住者」と訳し直してみれば、印象は一変する。

たとえば、日本国内で都会から田舎に生活の拠点を移すことは「地方移住」と呼ばれる。もちろん、違いがより大きい場所に移り住めば、戸惑いや困難もより大きいだろう。だから文化や言語が異なる場所に移動し、国民から外国人へと法的身分が変わる「国際移民(international migrant)」に注目が集まりやすい。

にもかかわらず、「違い」は言語・文化・国籍だけとは限らない。東京の都心からニューヨークの都心に仕事や生活の拠点を移すのと、携帯電話もインターネットも通じず、公共交通機関もなく住民数名といった国内の「限界集落」に地方移住するのと、どちらがより「違い」や「困難」が大きいのか、一概には言えない。

国際移住者には「支援」が必要で、国内移住者には必要ない、とも言い切れない。現に都市部から地方移住者を呼び込もうとする自治体は、熱心に移住者を「支援」している。一般社団法人「移住・交流推進機構」の集計によれば、2018年度に全国270の自治体が地方移住者・移住希望者に対し、住宅、子育て、就業・企業、地域活動、保健・医療・福祉など約4,400件の支援施策を実施している。

つまり「日本人」と“migrant”は理論的には区別できず、あくまでも制度によって相対的に区別されるに過ぎない(森2019)。あなたの隣人は隣国から移住してきたが、あなたは隣県から移住してきたとすると、それはどのくらい違う場所から移り住んできたかという程度の差でしかなく、このくらいの違いであれば行政的に異なる/同じ扱いをしますよ、という便宜的な区分でしかない。

あなたが生まれてからずっと同じ場所で暮らしてきたとしても、これから成長し、老いていくなかで、どこか違う場所への移動を経験するだろう。そのとき、あなたは“migrant”になる。

日本の移民社会化が進むということは、「日本人」と“migrant”がますます区別しづらくなっていくということである。その直接的な理由は「移民的背景をもつ日本人」が増加していくからだが、さらに根本的な理由は、そもそも現代社会において、あらゆる人は定住者であると同時に、移住者でもあるからなのだ。

つまり、この文章を読んでいるあなたが誰であれ、あなた自身が“migrant”なのだ。

「移民」とは、あなたと本質的に異なる“alien”(エイリアン/異邦人)ではない。あなたと異なる移住経験をしてきた結果として、あなたと何かが違っているかもしれないが、その違いはあくまで程度の差でしかない、誰かである。それゆえその「違い」が生み出す摩擦や困難には、制度と実践を工夫することで、(容易に、とは言わないまでも)向き合うことが可能なのだ。

これが、移民社会化する日本での共生/共棲を現実的に考えるために必要な、もうひとつの「発想の転換」なのである。

引用文献
・荒牧重人ほか編著,2017,『外国人の子ども白書―権利・貧困・教育・文化・国籍と共生の視点から』明石書店
・移民政策学会設立10周年記念論集刊行委員会編,2018,『移民政策のフロンティア―日本の歩みと課題を問い直す』明石書店
・是川夕,2018,「日本における国際人口移動転換とその中長期的展望―日本特殊論を超えて」『移民政策研究』10号
・佐藤由利子,2018,「移民・難民政策と留学生政策―留学生政策の多様性の利点と課題」『移民政策研究』10号
・下地ローレンス吉孝,2019,「『日本人』と『外国人』の二分法を今改めて問い直す」『現代思想』47巻5号(2019年4月号)
・田村恵子,2013,「戦争花嫁」吉原和男編者代表、蘭信三、伊豫谷登士翁、塩原良和、関根政美、山下晋司、吉原直樹編『人の移動事典―日本からアジアへ・アジアから日本へ』丸善出版、72-73頁
・メンディエッタ,エドゥアルド/ジョナサン・ヴァンアントワーペン編,2014,『公共圏に挑戦する宗教―ポスト世俗化時代における共棲のために』岩波書店
・望月優大,2019,『ふたつの日本―「移民国家」の建前と現実』講談社現代新書
・森千香子,2019,「共生社会で求められる『相対的よそ者』の視点」『現代思想』47巻5号(2019年4月号)