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# 心理・精神医学

「自閉症」から読み解く、若冲が大人気になった本当の理由

21世紀的な若冲と積極的奇異

時代が若冲に追いついた理由

先日、NHKテレビで「超スゴい! クイズ若冲」という番組を見た。鳴り物入りの超高精細8K技術を使って、最近大人気の江戸期日本画家、伊藤若冲の絵画を撮影し、それを基にしてクイズをやろうという趣向である。

 

画家の名前がクイズ番組の題名になるのはかなり例外的であるし、フルネームではなく雅号の若冲だけで通用してしまうのは、北斎や写楽に匹敵する人気をこの異端の画家が獲得していることの証拠である。

若冲は従来、その異端性ゆえに「奇想の画家」と呼ばれてきた。最近の展覧会「奇想の系譜」展でも、若冲作が目玉の1つとなっている。

「奇」とは、普通や正統とは異なるという意味であり、若冲画は、江戸から近代へとつながる日本画の正統から外れたものとして、かつては低く評価されてきた。

ところが、近年、とりわけ21世紀に入った頃から、若冲は一般の人々から熱狂的に受け入れられるようになった。そのありさまは、フェルメール人気を彷彿とさせる。もちろん一部の専門家は深い学識に基づいて若冲を、「奇想」という繊細な位置づけで高く評価してきたわけであるが、それに比べると、最近の一般人気はあまりにストレート過ぎるように思われる。

普通の人々はごく正直に若冲に感動してしまっている。これは何も、今までの専門家の美術史的評価が間違っていたというのでは全くなく、21世紀の一般の人々の感性の方に大きな変化が生じた結果だと見る方が適切だろう。

専門家から「奇」と判断されてきた対象が、現在の多くの人にとって、素直な感性で共感出来るという状況が生じたのである。

その理由はすべて、若冲という一人の天才の才能と技倆のおかげと言えなくもない。だが、それにもかかわらず、敢えて別の要因と文脈の中で若冲ブームを捉えてみたいと思う。

8Kレベルの超絶技巧

伊藤若冲の絵画の特徴の1つは、その驚くほどの細密描写である。とりわけ、鶏を初めとする小動物の描写でそれが際立っている。それが驚きを与えるのは、「そこまでやる必要があるのか」という徹底ぶりが描写の上で発揮されているからである。

もしかすると、同時代の名手の画家ならば、同じ程度の細密描写は可能だったのかも知れない。だが、他の画家たちはそこまでやろうとはしなかった。理解を超えたそのような過剰さこそが、若冲が与えてくれる驚きの源泉である。

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1つの説明の仕方は、若冲は生活のために絵を描いていたわけではないので、時間とエネルギーを好きなだけ作品に投入できた、良い意味でのアマチュアだったからというものである。

それはそれで、魅力的な説明であり、生き様として羨望の的である。だが、それ以上の説明しがたい過剰さが若冲にはある。

そして、だからこそ、8K画像技術にとって恰好のアピールの対象となり得た。ここにはすでに、分かりやすい形で若冲が21世紀の普通の人々に訴えかける魅力が現れている。

アップで見れば見るほど、ますます色々な細部が見えてくるという描き方は、デジタル技術に基づく画像技術との親和性が高いのだ。

かつてのテレビは、近づいて視聴することを前提としてはいなかった。ある程度離れて見るからこそ、綺麗に見られたのである。最近まで私たちが美術館で見慣れてきた絵画もやはり、ある程度離れて見ることが前提であった。

近づいて見た時には荒々しい筆のタッチが目立つのに、離れて見ると、リアルに生き生きと見える絵画を前にして、私たち鑑賞者は嘆賞してきた。

美術品がガラスケースに守られている以上、それは当然の見方だったが、パソコン・スマホの登場などによって、画面を拡大し、目を近づけて見るという振る舞いはごく一般的になってきたのである。