なぜ日本と韓国の間で「桜の起源論争」はこれほど長引いたのか

桜を愛でる文化は日本が育てたが…
青山 潤三 プロフィール

ちなみに自然界では、同所的にあるいは隣接して分布する近縁種同士は、遺伝的にごく近い組み合わせであっても、何らかの忌避機能のような働きが作用するためか、自然の状態で交配することは少なく、むしろ離れて存在する遺伝的にもやや離れた種の間のほうが交配確率が高い、という傾向が見られます(※野生アジサイやいくつかの蝶類における筆者の観察に基づく)。

実際、ヤマザクラとカスミザクラとオオヤマザクラは、血縁上極めて近く、同じ地域に生えていることが多いのですが、野生下では互いに独立した集団として存在するのが通常です。同じ地域に生えていることが多い、やや血縁の離れたエドヒガンについても同様です。

一方で、オオシマザクラとエドヒガンは分布域が離れており、重なっていません。そのため、これらが交配に成功し、ソメイヨシノが生じたといえるでしょう。

済州島原産の王桜の場合も、離島という特殊な条件下で、ヤマザクラ群のどれかの種とエドヒガンとの交配が起こったのかもしれません。だとしたら、王桜がソメイヨシノそっくりであっても不思議はありません。でもそれは、やはりソメイヨシノではないということも確かです。

 

ソメイヨシノが消えるかもしれない

現在日本で生育しているソメイヨシノは、もとはと言えば、全ての個体が同じ祖先の遺伝子をそのまま受け継いでいる「クローン集団」です。

野生の植物の場合は、原則として雄しべから雌しべに受粉がなされて種子を形成し、次世代が生まれます。一方、人間の手によって作られた園芸品種の多くは、生殖機能をもっていません。そのため、次世代に繋げることは出来ず、ソメイヨシノも接ぎ木などによってしか増やすことができません。

もちろん、ある程度の個体差はあるとしても、日本のソメイヨシノはそろそろ、一斉に寿命が尽きる時期を迎えています。ということは、もしかすると近々、ソメイヨシノに代わる新たな「鑑賞用の桜」を作成しなくてはならないかもしれません。

繰り返しになりますが、野生のサクラは日本だけでなく、朝鮮半島にも中国大陸にも数多く生えています。生物地理的視点からは、東アジアのどの国も「桜の発祥地」を名乗る権利があるでしょう。ただし、「文化としての桜」の主流をなすソメイヨシノは、疑いなく日本発祥です。

もしも今後ソメイヨシノが失われてしまうとすれば、「文化としての桜」を象徴する品種を、人間の手で新たに作り出す必要が生じてきます。その際のスタートラインは、どの国も同じです。

中国であろうが韓国であろうが、自国の野生種に基づいて「これこそが次世代の桜」であると国際的に認められる品種を世に送り出すことができれば、その暁には改めて「桜の発祥地は我が国である」と主張できないこともない――と言えるでしょう。

だとしても、「桜文化」の歴史的な発祥が(たぶん)日本であることは、変わりないのですが。