なぜ日本と韓国の間で「桜の起源論争」はこれほど長引いたのか

桜を愛でる文化は日本が育てたが…
青山 潤三 プロフィール

東アジアに広がる野生のサクラ

ひとつは、通常話題にのぼる、人間社会の生活圏における「桜」。ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラという2つの野生種を人為的に交配した品種ですし、カンザクラ、シダレザクラ、ヤエザクラなども、生物学的な分類という意味での「種」ではなく、人為的に作出した「同じような外観の品種の総称(俗称)」です。

一般的に「桜」と呼ばれて親しまれている対象は、こうした人為的に作られた「品種」群です(便宜上、漢字の「桜」と表しておきます)。その数はいまなお増え続けていて、一説には現在、日本だけで1000種近くの桜があると言われています。

 

そしてもうひとつは、野生生物としての「サクラ」です。

「サクラ属」が示す範囲は研究者によって異なります。狭義で捉える場合はいわゆる「サクラ」類のみが含まれますが、広義で捉える場合は、ほかにもいろんな馴染の植物を含み、それぞれが「亜属」に置かれます。

代表的なグループには、スモモ亜属(スモモやプラム)、アンズ亜属(ウメやアンズ)、アーモンド亜属(モモやアーモンド)などがあり、メジャーな果物やナッツが属します(日本にはどれも野生しません)。

サクラ亜属の中でも、ヨーロッパや中国においては、日本には野生しないセイヨウミザクラやカラミザクラなどの果実(すなわちサクランボ)を食べるために栽培されている種が主流です。例えば中国の都市のスーパーに行くと、多種多様の「サクランボ」が山盛りに並べられていますし、奥地の少数民族の村でも、道端の露店のいたるところで、様々な種類の「地元のサクランボ」が売られているのに出会います。

そのような意味で、サクラ属の各種をまず第一に「食用」と見做す諸外国とは違って、サクラの「花」に重きを置く日本の文化は、独特と言えるのかもしれません。

一方、日本に分布する野生のサクラには、ヤマザクラ、エドヒガン(ソメイヨシノの片方の親)、マメザクラ、チシマザクラ、チョウジザクラ、カンヒザクラ(日本には石垣島のみに自生するとされる)などがあります。

便宜上、こうした分類からみたものをカタカナで「サクラ」と表すことにしましょう。これらは生物として互いに近縁で、そのため交配ができ、新たな品種を作ることができるのです。

野生のサクラは、日本だけでなく朝鮮半島、ロシア沿海州、中国大陸、ヒマラヤ地方、インドシナ半島北部、台湾など、いわゆる「東アジア」に広く在来分布し、日本産はざっと10種前後ですが、さらに統合したり細分したりする見解もあります。

中国で自生していた野生ザクラの一種

特にヤマザクラは、ヤマザクラ、カスミザクラ、オオヤマザクラ、オオシマザクラ(ソメイヨシノのもう片方の親)の4つに分け、それぞれを独立の種として扱うことが一般的です。

このうち、前述したように、オオシマザクラとエドヒガンの交配品種の一つが「ソメイヨシノ」であることが確定済みです。しかしポイントは、ヤマザクラ4種のうちオオシマザクラ以外の3種とエドヒガンも、同様に交配可能と考えられることです。

つまり、「ソメイヨシノ」に似た別の桜が(天然にか、人為的にかは問わず)存在していても不思議ではないのです。ソメイヨシノと「似て非なる桜」である韓国済州島の「王桜」は、そのような桜のうちのひとつである可能性もあります。