2019.04.04

世界のサッカー界を激変させる中東「国家主導型選手養成機関」の実態

オイルマネーで変わる勢力図
栗田 シメイ プロフィール

「買い取り」を問題視する声も

アカデミアに所属する別の関係者の発言も興味深い。

「明らかなことは、アスパイアに投資する国家や一部の王族はこのアカデミアをビジネスとして捉えていることだろう。年間50億円という莫大な費用も、年間に1人、ないしは2人の優秀な選手を育て上げれば、その選手の移籍金で充分にペイできるという考え方を持っている。

 

慈善事業ではなく、ビジネスとして展開するための詳細なプランがあるんだ。ゆくゆくはカタールの選手がワールドカップに出場し、そこで価値を高めた選手達を、高値で他国リーグに売却する。そんなビジネスを10年以上の長いスパンで考えているんだよ。

このビジネスモデルを確立するためには、まずはワールドカップなどの国際大会で成果を残さなければならない。だから、いまは将来への先行投資の段階だね」

ここでひとつ、アスパイア・アカデミーの「問題点」を挙げておかなければならない。アスパイア・アカデミーはコーチだけでなく、世界中から「サッカー選手の卵」を呼び集めている。

前述の「施設」に入るのは、カタール人だけではなく、ガーナ、セネガル、エジプト、スーダン、イラクなど、世界各国、特にアフリカから集められた若者たち。いまのカタール代表でも純粋なカタール人はかなり限定される。

アジアカップのメンバーも23人中、実に14名が海外にルーツを持つ選手が占めていた。アスパイア関係者によればこれがアンダー世代になると、より顕著になっているというのだ。つまり、有望な選手を10代のうちに移民として家族ごとカタールに呼び、5年間生活させたのちに、自国のサッカー選手として帰化させているのだ。

こういった「帰化問題」は、アジア大会中にカタールと犬猿の仲であるUAEサッカー協会がAFC(アジアサッカー連盟)に抗議文を提出したことでも物議をかもした。

その内容は、カタール代表の主力であるスーダン出身のFWアルモエズ・アリ(22)、イラク出身のDFバサム・アルラウィ(21)の2選手の代表資格がFIFAの規定における帰化選手の要件を満たしていないというものであった。結果的にAFCはこの訴えを却下したが、欧米メディアはこぞってこの問題を報道した。

米ニューヨーク・タイムズ紙にいたっては、優勝を報じた記事の中で「UAEがカタールチームのスーダン出身ストライカーのアリを含む2人の選手に代表資格がないとする申し立てを行ったことが、この試合の盛り上がりに影を投げかけていた」と辛辣な論調で展開している。

先出のアスパイア関係者が続ける。

「ガーナやアフリカ系の選手を中心に、マネーの力でカタールに連れてきて『自国の選手』にするという手法は、サッカー界でも賛否が分かれている。アジアカップの時にはUAEが抗議をしたけれど、実は国内でもこの手法の是非については頻繁に報道されているんだ。

特に大金をエサに、身体能力に秀でた子供たちを”買い取る”手法は、FIFAからも問題視されている。最近では警察も、そういった活動を取り締まる動きが出てきているくらいだよ。成功の影で、大きな問題に直面しているのも事実だ」

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