2019.04.04

世界のサッカー界を激変させる中東「国家主導型選手養成機関」の実態

オイルマネーで変わる勢力図
栗田 シメイ プロフィール

強化費用、なんと年間50億円…

W杯の開催を3年後に控えるカタールでは、14年頃から国家戦略として本格的にサッカー代表チームの強化に着手した。強化費用だけで年間約50億円という巨額の予算は、アカデミーとしては疑うことなく世界最高峰だ。

Jリーグでも有数の資金力を誇る浦和レッズのアカデミー運営費が約1億2千万円であることからも、この数字が桁違いなものであることはご理解いただけるかと思う。

 

「アスパイア・アカデミー」の開設は04年に遡る。カタール国家が開設したこのアスリート育成機関は、当初はサッカーに限らず、世界的なアスリートを排出することを目的としていた。

サッカー人気が高まる中で、なんとしてもワールドカップの自国開催を、という気運が高まり、06年ごろからワールドカップ招聘のためのロビー活動を始めるとともに、王族が中心となり、サッカー選手を育成する機関の強化を進めたという。

筆者は2013年にカタールを訪れているが、主要欧州リーグのテレビ中継が毎日のように放映されていたことが印象に残っている。街中の労働者達が人気クラブのユニホームを身に纏って応援に熱を入れる姿も珍しくなく、サッカーへの熱狂が国民の間に広がっていることを肌で感じた。

元FCバルセロナのコーチであるブラス・チャーリン氏は、アカデミアの設立時を知る人物である。現在はアスパイアを離れ、ヨーロッパのクラブチームの指導に身を投じているが、近年のアスパイア・アカデミーの勢いには舌を巻いているという。

元アスパイアのブラス photo by 栗田シメイ

「アスパイアが本格的に飛躍の時を迎えたのは、14年にカタールがAFC U-19選手権(※編注19歳以下のアジア王者を決める大会)を制してからだ。ちょうどこの時期は、国内の貴族や王族達がフットボール界でカタールの認知度を高めることを目的に、世界中のクラブにコンタクトを持ち始めていた時期でもあった。

当時はバルセロナが欧州のトップクラブとして君臨していた。そのバルセロナの心臓であったシャビを、カタール最大の権力者であるタミム首長の一族が巨額のオファーで呼びよせ、その後は彼のコネクションを通じてバルセロナとのラインを確固たるものにした。

この英断によって、この国のフットボールは好転を始めたんだ。私の目から見て、1月のアジアカップでのカタールは決して本調子ではなかった。そんな中でも日本を圧倒したんだ。この結果だけでも、いかにプロジェクトが順調に進んでいるかの証明といえるだろう」

ブラス氏の言葉を借りれば、アカデミアは必ずしも順風満帆な道を辿ってきたものではない。欧州とは価値観が異なるカタール人に対する指導方法は二転三転したという。

現在は、スペイン人とポルトガル人のコーチが9割以上を占めるが、当初は世界中から指導者を招いていたという。もろもろの試行錯誤を繰り返しながら、14年以降は完全に高いボールポゼッションで試合を支配する“バルセロナ化”へと舵を取り、組織力を重視した指導方法を確立。2019年のアジアカップ優勝へと繋がっていく。

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