イチローが引退会見で語った「人望がない」の真意を読み解く

天才の心象風景を読む
週刊現代 プロフィール

尊敬されるが慕われない

高い目標を掲げ邁進する自分と、それを「チームプレーの欠如」と捉える周囲の選手との間の、埋められない意識の差。

どんなに成績を積み重ねようが、尊敬し仰ぎ見られることはあっても、決して慕われない。むしろ、遠巻きに陰口を叩かれ、いつの間にかチーム内で孤立していることに気がついたとき、天才の心は深く傷付いた。

そんなイチローに決定的な影響を与えたのが、'12年7月、自ら志願し、ヤンキースへトレード移籍したことだった。

 

加入1年目の'01年を除いて、マリナーズは地区優勝すら一度も果たせず、最下位が定位置になっていた。イチローにはワールドシリーズに出られるような強いチームに行きたいという気持ちがあった。

だが、移籍時の会見で「20代前半の選手が多いこのチームの未来に、来年以降僕がいるべきではないのではないか」と心情を語っていたように、マリナーズの若手選手たちとの人間関係に苦慮していたことも、移籍を望んだ大きな要因だった。

そして、ヤンキースという新たな環境でイチローが目の当たりにしたのは、アレックス・ロドリゲスやデレク・ジーターなど、自分の同世代のスター選手たちの、余裕に溢れた立ち居振る舞いだった。

「メジャーの盟主であるヤンキースは、ファンサービスやメディアへの対応についても、常にプロであることを求める球団です。

とりわけ、当時キャプテンだったジーターは、国籍に関係なく若手選手みんなから慕われ、負けた試合後の取材でも、どれだけ記者がいようが最後まで丁寧に答える。

いつも周りに人の姿が絶えない、まさに『人望の塊』のような人物です。イチローは彼の姿を見て、『こういう選手がいるのだ』と驚いたことでしょう。

同時に、マリナーズ時代の自分に何が足りなかったのかにも気がついた。だから、ヤンキースに移籍して以降、オーバーな身振りでジョークを言って周囲を和ませたり、会見でも真摯に対応するようになりました。

選手層の厚さゆえ、結果を出してもスタメンで出場させてもらえない時期もありましたが、不満を漏らすことなく、明るく振る舞っていました」(全国紙メジャー担当記者)

マーリンズを経て、'18年にふたたびマリナーズにもどってからは、若手選手に積極的に話しかけ、楽しそうに談笑する姿が増えた。