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イチローが引退会見で語った「人望がない」の真意を読み解く

天才の心象風景を読む

将来の「イチロー監督」の登場は野球ファンなら誰もが期待するところだ。だが、会見を見る限り、本人は自分には務まらないと考えているようだ。天才が、そう思い詰める陰には、いったい何があったのか。4月1日発売の『週刊現代』で特集している。

師・仰木彬という理想

「監督は絶対無理ですよ。〝絶対〟がつきますよ。人望がない。本当に。人望がないですよ、僕」

3月21日、イチロー(45歳)の引退会見でとりわけ印象的だったのが、この発言だ。

イチローは、普段から真意を測りかねるような発言で、周囲を煙にまくことがある。だが、この発言ばかりは、真剣な表情で「人望がない」ときっぱりと言い切る姿から、「本心」であることが伝わってきた。

日米通算4367安打のギネス世界記録、シーズン262本というメジャーリーグ最多安打記録……。

数々の金字塔を打ち立ててきた天才に、いずれは球界を牽引する指導者になってほしいというのは、記者ならずとも自然に抱く期待だろう。そして、本人も将来のキャリアパスとして、監督という立場を意識したことがないはずはない。

それでも、イチローが「絶対無理」と言い切った陰には、いったい、どんな思いがあったのだろうか―。

 

「イチローの頭の中には、仰木さんという『高すぎる理想』があるのではないか」と語るのは、オリックス時代、イチローとチームメイトだったパンチ佐藤氏だ。

イチローと、オリックスの監督だった故・仰木彬との強固な師弟関係は、よく知られた話だ。

「1~2年目と二軍で結果を出しながら打撃フォームの修正を求められて嫌気が差していたイチローを、『お前は何も変える必要はない、そのままで行け』と受け入れたのが、新任の仰木監督でした。

そもそも、『イチロー』という登録名自体、僕の『パンチ』とセットで売り出そうと仰木さんが勧めたものです。

イチロー本人は渋っていたようですが、引退するまでずっと使い続けているんだから、そこには当然仰木さんへの思いがあるのでしょう」

人望とは、信頼できる人物として、人々から慕い仰がれること。

イチローのみならず、野茂英雄(元ドジャース)や長谷川滋利(元マリナーズ)、田口壮(現オリックスコーチ)など、メジャーに挑戦した教え子たちからいつまでも師匠と慕われ続けた仰木は、まさに「人望」を具現化したような人物だった。

仰木とイチローの年齢は40歳近く離れている。

若い頃は、師匠と自分の人柄を重ねて、深く考えたことはなかった。だが、時が過ぎ、次第に周囲に年下の選手が増えていくにつれ、イチローも自分の「器」を測る物差しとして、仰木を念頭に置くようになったのだろう。

それは、引退会見で「シャレた人だった。仰木監督から学んだことは計り知れない」と名前を出したことからも明らかだ。

仰木は現役時代、「遊びの合間に野球をやっていた」と言われるほどの遊び人だった。

毎夜大酒を飲み、女性を口説く。そうして磨かれた豪快な人柄が、監督になってからの選手との関係作りにおおいに生きた。

ひたすら野球に没頭して生きてきたイチローが、「自分は、ああはなれない」と思ったとしても無理はない。