22歳のとき、日本の就職活動はイヤだ! とドイツに行き、そこで甘くない現実に直面したライターの雨宮紫苑さん。27歳の今年、ドイツの男性と結婚することになった。そこで戸籍役場に行ったときに、担当の方から最初に聞かれたことは……。

役所の担当から「姓はどうします?」

留学中に知り合ったドイツ人男性と付き合い始めて、もう6年経つ。そんなわたしたちは2月某日、結婚の申し込みのために、戸籍役場を訪れていた。入籍の前にふたりそろって役場に行き、必要書類を事前に提出する必要があるからだ。

そこで担当の人に、「名前、どうします?」と聞かれた。

うーん、どうしよう。正直、あんまり考えていなかった。日本では「夫婦同姓」のみが許されていて、厚生労働省によると96%の女性が結婚の際、夫側の名字を名乗っている。だからわたしには、「名前を選ぶ」という認識がなかったのだ。

しかしドイツでは入籍の際、名字を7パターンから選ぶことになる。田中一郎さんと、佐藤花子さんを例にすれば、この7択だ。

①夫婦同姓(2パターン):「田中 一郎&田中 花子」「佐藤 一郎&佐藤 花子」

②夫婦別姓(1パターン):「田中 一郎&佐藤 花子」

③ダブルネーム(4パターン):「田中・佐藤 一郎&佐藤 花子」「佐藤・田中 一郎&佐藤 花子」「田中 一郎&田中・佐藤 花子」「田中 一郎&佐藤・田中 花子」

※ダブルネームに関しては、州によって、旧姓と配偶者の姓の順番が決まっていることがある。また、両方がダブルネームにすることはできない。

実際まわりには、同姓、別姓、ダブルネーム、さまざまな夫婦がいる。日独夫婦の場合、「ドイツの名字のほうが楽」とドイツ人男性の名字にしたり、「面倒だから」と別姓のままだったり、「自分の名字は残したい」とダブルネームにしたりと、理由も事情も、人によってちがう

さて、どうしようか

さて、わたしたちの場合はどうだったか。

日本にはダブルネーム制度がないので、役所の担当者からは「ダブルネームは勧めない」と言われていた。いちいち日本で「ダブルネームってなに?」と言われるのも面倒なので、ダブルネームは選択肢から消去。

わたしは「女だからって名字を変えるべきっていうのは不公平。面倒だから別姓でいいんじゃないか」派だったけど、彼は「夫婦は同じ名前がいい」と言う。

「えーじゃあそっちが変えてよ」とためしに言ってみたところ、「わかった、考えてみる」という返事が返ってきた。ほとんど冗談だったが、検討してくれるというのであれば「じゃあよろしく!」という感じで、その日の話は終了。

その後、彼が職場の飲み会でその話をしたところ、みんな「クールじゃん」「やっちゃえ!」「いいんじゃない?」というノリだったらしい。彼の家族も、「好きにすれば?」「素敵!」というリアクション。

日本では妻の姓にしても旧姓で仕事をして姓を変えたことを隠している男性の方が多いように思うが、職場の飲み会で盛り上がるというのも、それだけ「選ぶことが当然の社会」ゆえなのだろう(写真はドイツのパブですが、雨宮さんご本人とは関係ありません)Photo by iStock

それどころか、彼の兄は結婚する際、妻に「俺の名字でも、君の名字でも、別姓でもダブルネームでもなんでもいいよ」と提案していたそうだ。結果、妻が「あなたの名前がいい」と望んで、夫側の名字にしたとのこと。「だから別にいいんじゃない?」と言う。

とはいえ、男性が名字を変えるのはドイツでもあまり多くはない。南ドイツ新聞によると、75%の夫婦が夫側の姓を選んでいる妻の姓を名乗るのはたった6%で、しかもアジア人妻の名字を名乗るなんていったい全体の何%?というくらいの割合だろう(ちなみに夫婦別姓は12%、ダブルネームは8%)。

それでもまわりの人はみんな好意的で、「ふたりがそうしたいならそうすれば?」とシンプルな答えをくれた。彼を含め、「君が名字を変えるべきだ」とわたしに言ってくる人は、だれひとりとしていなかったのだ。