1972年、家族みんなで見ていたテレビ番組を懐かしむ

遠い昔の家族団欒
週刊現代 プロフィール

実社会では陰惨な事件が発生した一方で、明るいホームドラマが全盛期を迎える。この年はテレビドラマ史に残る大記録が打ち立てられた。

12月21日に放送された水前寺清子主演のドラマ『ありがとう』(第2シリーズ)が、56.3%を叩き出したのだ。この数字は民放ドラマの最高記録であり、今後も抜かれることはないだろう。

 

水前寺清子と山岡久乃に涙

『ありがとう』は全4シリーズで、婦人警官、魚屋、カレー屋と舞台や設定を変えるが、この第2シリーズの看護師編がなかでも人気が高い。

ドラマ評論家の黒田昭彦氏が解説する。

「石坂浩二演じる小児科医がとうとう水前寺にプロポーズする回が最高視聴率でした。このドラマで楽しみだったのは、水前寺と母親役の山岡久乃のかけあい。二人は毎回、本音で口ゲンカをするけど、すぐに仲直り。

嫁入りして実家を出るときには、『年取ったらまた一緒に住もうね』『当てにしてないよ』とお互いを思いやり、心にしみました」

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このほかにも、'72年はホームドラマのヒットが続いた。森光子主演の名作『時間ですよ』、京塚昌子主演の『肝っ玉かあさん』、吉永小百合主演の『花は花よめ』、子役・宮脇健が主演するケンちゃんシリーズの『すし屋のケンちゃん』『ケーキ屋ケンちゃん』が高視聴率を獲得した。

「向田邦子が脚本を書いた『新・だいこんの花』(テレ朝系)も良かったですね。永山誠(竹脇無我)がなかなか結婚できないのは、父親(森繁久彌)の偏屈さも大きな原因でした。

竹脇はプロポーズした恋人に『お父さんと一緒にやっていく自信がない』と言われ、父親と自分のどちらを選ぶのかと迫られる。

一方の森繁は『自分が身を引くから結婚してやってくれ』と息子の恋人に伝え、事態がややこしくなっていく。ドタバタ劇の中にも家族の機微がきめ細かく描かれました。

それ以前のホームドラマは大家族モノが主流でしたが、『ありがとう』は母娘、『だいこんの花』は父と息子と、一対一の親子関係が軸なのが新しかった」(黒田氏)

前出の碓井氏は、同年のホームドラマでは、『パパと呼ばないで』(日テレ系)が印象深いという。

「独身男を演じる石立鉄男が、亡くなった姉の子である姪(杉田かおる)を預かるという当時としては異色作です。この作品で描かれたのはカッコつきの『家族』。それが本当の家族のようになっていく。

特に、子役のパワーが印象的でした。この作品を見ていた人からしたら、杉田かおるはいつまでもチー坊。それだけ彼女の存在感は抜群でしたね」

同年7月21日からは、伝説のドラマ『太陽にほえろ!』がスタートする。

「『七人の刑事』などそれまでの刑事ドラマは陰惨な事件に立ち向かうシリアスな話が多かった。

しかし、『太陽にほえろ!』はそんなイメージを一変させました。若手の刑事ががむしゃらに頑張る、青春アクション刑事ドラマという新たなジャンルとも言えるかもしれません。

若手刑事の人間味がしっかり描かれる一方で、石原裕次郎さんが若手を支える。だから、幅広い世代が楽しむことができたんです」(前出・碓井氏)

元日本テレビプロデューサーで、江戸川大学教授の内藤和明氏も魅力をこう語る。

「なによりすごかったのは音楽と作品の調和。例えば、オープニングのイントロ明けで太陽が出てくるシーン。作中でも、シーンに合わせて絶妙な音楽が流れる。刑事が走っているときに流れていた音楽も耳にこびりついています。

映像ではなく音による刷り込みが強くて衝撃的でした。このドラマの陰の立て役者は、音楽を担当した井上堯之さんだったと思いますね」