習う理由は「うまくなるから」より

教室はウチから1分の場所にあった(看板ないから気づかなかった)。先生は60すぎの上品な女性である。

「ちょっと子供が学校の漢字書き取りで自信を失ってまして」と説明。学校のノートを見せる。

まあ、充分上手ですよ」と褒めてもらう。さらに、漢字をうまく書くコツを聞いてみる。

「まずよくお手本を見ること。次にゆっくり書く。そして、右上がりに書く。これで上手に見えますよ」

なんて的確なアドバイスなんだ! その場で子供がお手本を見てゆっくり書く。おお、なんとなく……できてる気がするぞ。

・お手本をよく見る
・ゆっくり書く
・右肩上がりを心がける

この三つのポイントを覚えた子供だが、実はぼくには別の目的があった。

「別の先生に別の意見をもらう」

これだ。

子供の世界は狭い。目の前の先生が絶対だと思うと、否定されたときに逃げ場がない。だから、もうひとつ別の権威をぶつけるのである。そうして権威を相対化していくことで、心に余裕ができる。リラックスして漢字も上手くなる。
完璧だ。天才すぎる。

数日後。子供に話しかけてみた。

「漢字うまくなった? ちょっと書いてみてよ」
「いいよ」

実際に書いてもらった画像がこれである。

右側が前に書いた文字、左側が教えを受けて書いた文字。良く見たら、右上がりに…なって… 写真提供/海猫沢めろん

か、かわって……ない……? いや……まて! よく見ると……右肩あがりの部分が……ある! あー、うん……あるね。あるよ。あるある! アドバイスの成果が出てる! 出てることにしよう!

「おお! できてるじゃん!」
「まあね」

まんざらでもなさそうである。
その後、習字の先生に認められたおかげか、先生に赤を入れられても前ほど凹むことはなくなった。「よく見る」、とは「良く」見る、ということでもあるんだなあ(金八先生の漢字説教風)。

文科省におかれましては、こまかい「間違い」を指摘するのではなく、こまかい「良さ」を指摘する方向で指導方針を作りなおしてみてはいかがでしょうか。

*歌舞伎町カリスマ育児ロード『キッズファイヤー・ドットコム』が川口幸範さんによって漫画化され、ヤングマガジンにて連載中。是非小説と漫画とを読み比べてみてください。どちらもめろんワールド炸裂です。