先住民族として、手付かずの北の大地に生き、衣食住の全てを自然の恵みのなかに育んだアイヌの人々。文字を持たなかった彼らは、手から手へバトンを渡すようにやさしく丁寧に、その独自の文化を今に伝えてきました。ガラス作家の山野アンダーソン陽子さんが北海道へ、彼らのものづくりを旅します。

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時代を超えて伝わる、
アイヌ文化の現在。

守さんが彫ったイタ。クルミやカツラの木を素彫し、オイルを塗って仕上げる。二風谷に伝わるうず巻きと、陰影で表現される細かな鱗の文様が特徴的。

お隣には、雪子さんの息子さんで、アイヌ語でイタと呼ぶ盆を作る貝澤守さんの工房がある。木彫り職人の父の仕事を見て育った守さんも、伝統工芸作家として32年、その技術を伝承している。

イタに彫られた文様は、二風谷に伝わるもの。うず巻きを模したモレウノカや、鱗を模したラムラムノカが特徴で、これらはイタだけでなくさまざまな道具や衣服にも描かれる。古くから、これらの自然界のかたちは、悪い霊から身を守る、魔除けになったとされる。実際に彫るところを見せてもらった。

彫りの美しさに目を奪われる山野さん。工房は『貝沢民芸』として、店舗も兼ねている。

「とにかく細かくて、繊細な仕事に驚きました。お盆に使うにはもったいなくて、飾っておきたいくらい。彫刻に使う手作りの道具も、手入れが行き届いていて素敵ですね」

使い込まれた美しい道具に、本質を見る。山野さんも同じ、つくり手だからこその目線だろう。

工房の神様に供えられたイナウに触れさせてもらう。これも自然界の恵みのかたちだ。

「かつては結婚の儀式などで、狩りの才能を象徴するものとして彫刻の腕前が問われたと言います。本当のところはどうなんでしょうね」と、守さん。長い歴史に培われた、アイヌのロマンに思いを馳せた。