先住民族として、手付かずの北の大地に生き、衣食住の全てを自然の恵みのなかに育んだアイヌの人々。文字を持たなかった彼らは、手から手へバトンを渡すようにやさしく丁寧に、その独自の文化を今に伝えてきました。ガラス作家の山野アンダーソン陽子さんが北海道へ、彼らのものづくりを旅します。
 

ふたつの北国をつなぐ、
北方民族の地へ。

北海道は札幌の南東、平取町二風谷地区。アイヌ語で「木の生い茂るところ」を意味するこの地には、15世紀の頃からのアイヌの歴史の足跡があり、沙流川流域の森に育まれた伝統文化が今も息づく。

旅人は、スウェーデンのストックホルムを拠点とするガラス作家の山野アンダーソン陽子さん。山野さんがガラスに興味を持ったのは、まだ日本にいた12歳の頃。その後、19歳で初めてスウェーデンを訪れ、22歳で移住を決めた。今のようにインターネットで何でも気軽に調べることができなかった時代。だからこそ、異国に憧れたのかもしれないという。

「母親に連れられて行ったスカンジナビアの展覧会で、ガラスの作品を見たのがきっかけでしたね。その後、時が経って、マスプロデュースするクラフト作りにアーティストが参加したり、職人たちが工房に集まって作ったりする、そういうかたちの産業に興味を持ちました。単純に、同じようで違うものがたくさんあるようなことが好きなんです。ひとつひとつ手作りするグラスも、そんなふうに少しずつ違う。手にフィットするグラスが、その人なりにあったらいいなという感覚に、クラフトなら応えられるのかなと思って」

工房で吹くグラスは、ひとつとして同じではなく、手仕事の痕跡が残る。そのそれぞれに使い手がいることが愛おしいのだという。

山野さんの作品は、あるときは機能的なグラスやジャグ、あるときは飾ることを目的としたアートピースと変幻自在。アートであり、クラフトでもある作品は、今も彼女が拠点としているスウェーデンで育まれた。伝統的な工芸であれ、自由でおおらかなものづくりを許容する環境にあるその国には、北方にトナカイの角などの身近な素材を使い、生活に根ざしたものづくりをするサーミがいる。

彼らと同じ北方民族ということで、北海道のアイヌに親近感と興味を持ったという山野さん。北国に住むガラスのつくり手として、アイヌの手仕事と向き合うことが、旅のひとつの目的となった。