旅好きセレクターによる、旅へと誘う本をご紹介! 今回は、みんげい おくむら店主の奥村忍さんに選書してもらいました。
 

歩いて、食べて、もの探す。
民藝蒐集の旅を紐解けば。

旅が仕事だから月の3分の2は旅に出る。民藝(いわゆる民衆的工芸)と呼ばれる、人の手から生まれる、暮らしのための道具を国内外あちこちに探し求める。ものが生まれる土地を訪ね、風土を知り、ものづくりの奥にあるものを感じたい。家よりも旅先の時間の方が長いので旅が非日常というよりも日常である。
 

世界の民芸
浜田庄司、芹沢銈介、外村吉之介 著/朝日新聞社(1972年)
北中南米、アジア、ヨーロッパなどの海外民芸品を中心に美しい写真で紹介している。3人の著者が簡潔な解説でまとめた一冊。

『世界の民芸』は旅の原点。個性豊かな意匠や色使いは、それらが生まれる場所を想像しワクワクするものばかり。どれもが土地の風土に根ざして人の手により生み出されてきた生活や祈りの道具なのだ。こんなものを見つけたいと願って各地へ足を運ぶ。
 

つげ義春「旅」作品集
リアリズムの宿

つげ義春 著/双葉社(1983年)
筆者がしきりに旅行をしていた時期の短編集。表題作は青森県五能線沿岸へ旅した時の作品である。心にしみる「旅」作品集の傑作。

旅先はガイドブックには載らないような場所がほとんど。『リアリズムの宿』に限らずつげ義春の漫画の旅人たちのように、じわりと町を歩き、出会った人とおしゃべりをする。市場、道具屋、食堂や酒場、風呂屋、宿、時には出会った誰かの家で。そんなリズムが自分の旅(という日常)にもしっくりくる。旅とは何も名所旧跡を巡るだけではないだろう。
 

小説家のメニュー
開高健 著/TBSブリタニカ(1990年)
ベトナムの戦場でネズミを食べ、ブリュッセルの郊外の食堂でチョコレートに驚愕。味の魔力に取り憑かれた作家の世界美味紀行。

民藝の先人には食を愛した人も多いが、それがこの職の資格ならば有資格者だと自負できる。『小説家のメニュー』の小説家に憧れ、恐れず驕らず求めてきたつもり。さすがに銃弾をかいくぐって鼠を食べるような経験はないが、美味、珍味、奇味、魔味……。いろいろ食べました。彼の地の人の手で作られ続けてきた郷土食はその土地でしか体験できない最高の民藝だと思うのです。
 

PROFILE

奥村忍 Shinobu Okumura
WEBショップ「みんげい おくむら」のオーナー。旅を通して、生活道具や美しい日用品を提案している。


●情報は、2019年3月現在のものです。
Photo:Toru Oshima