# 地方創生

「映画になった男」が語る逆転の発想。「過疎地にこそチャンスアリ」

人も企業も再生する地方オフィスの魅力
吉田 基晴 プロフィール

ITエンジニアの大多数は大都市圏にいます。そのなかには本当はアウトドアが大好きだけれど、時間の制約などで思うようには遊べていない人も一定数はいるに違いない。そうした人に仕事をしながら思う存分、アウトドアも楽しめるという生活を提案する。

こうして募集をかけたところ、狙いはズバリ当たりました。変わったことをやっているということで、新聞やビジネス雑誌、アウトドア雑誌でも取り上げられ、応募は急増。いままで何年も悩みの種だった採用問題は一挙に解消しました。実際にXがサーフィンの男性エンジニア、Xが狩猟の女性エンジニアなども入社してくれて、おかげで業績もアップしました。

おもしろかったのは、アウトドアに関心のない人でも「そんな変わったことを考える会社だったら、社内の雰囲気もいいだろう」ということで応募してくれた人がいたことです。

サテライト・オフィス開設は2012年5月、翌年には思い切って本社も美波町に移しました。東京をサテライト・オフィスにしたのです。そして2016年からは私自身、住民票も東京から美波町に移し、東京出身の妻、小学生の娘と息子も引っ越しました。

 

田舎はとっても忙しい

実際に美波町で仕事を始めてからの実感、それは「田舎は忙しい」ということです。

会社の仕事は東京にいたときとほとんど変わりません。通勤時間は大幅に減り、その分遊びに使える時間は増えました。それこそ出社前、退社後にサーフィンをすることも可能。きれいな海と川、アウトドア好きにはたまらない環境です。これだけだといわゆるスローライフを満喫、という感じですが、じつはそれだけではない。

増えたのは、いわゆる田舎ならではの「つとめ」です。会社があるのは美波町の中でも、個数20軒足らずの小さな集落でした。そこに一挙に若い人がやってきたわけですから、いろいろと期待されることも多い。

消防団に早速入って、認知症の高齢者が行方不明になったりするとみんなで探しに出たり、共同草刈り、徳島ならではの阿波踊りの練習、地元のお祭りの準備など、一年を通じてさまざまな「つとめ」があります。

ほかにも高齢者にパソコンを教えたり、地元の中学校に頼まれてIT授業をやりにいったり。これらはもちろん無償です。

こうした「つとめ」は、都会の暮らしではすでにその多くが失われているものですから、社員たちも最初はとまどいます。でも嫌がる人は意外と思うほど少ない。

これは「つとめ」を通じて、自分が社会から必要とされる存在だということが実感できるからのようです。

草刈りにしても、最初は経験がないから、地元のおじいちゃん、おばあちゃんに比べるとまったく戦力にならない。でも、手伝うだけでものすごく感謝される。一緒に酒を飲んでも「よく来てくれた。あんたたちが来てくれたおかげで村がにぎやかになった」と歓迎される。

都会にいると、何十万分の一かの存在だった自分が、ここに来ると一分の一の存在だと感じられる」。彼らはこう言います。

彼らは「半IT半X」を超えて、「つとめ」をふくめて、マルチXの生き方に目覚めていったのです。

最初は、一人前の戦力にならなくても、プレイヤーの一員になるだけで、感謝される場所が日本にはある。このことは、とくに都会で自分は何者なのかと悶々としている若い人に知ってほしいと思います。

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