文在寅政権を理解するために知るべき韓国の「歴史的高揚感」の実態

その主観的世界の中で日本は軽いものに
木村 幹 プロフィール

情勢急変が迫る分水嶺

とはいえ、その事は、さまざまな式典で、この社会の「影」が見られなかった事を意味しなかった。日本や植民地支配への批判が背後に退く中、あちこちで見られたのは、北朝鮮を巡る問題や深刻化する社会の格差問題を巡る、韓国内左右両派の対立だったからである。

光化門前のメイン会場では、文在寅自らが記念演説を行い、自らの朝鮮半島政策と称する「新韓半島体制」構想をぶち上げ、米朝首脳会談の決裂直後であるにもかかわらず、北朝鮮との対話継続への強い意志を示した。

これに対し、そこから数キロ南に位置する南大門付近には、「太極旗部隊」と通称されるこれまた万を超える保守強硬派が集結し、太極旗と星条旗、更には弾劾され獄中にいる朴槿恵前大統領の写真を掲げて、北朝鮮との対話を進める文在寅政権を猛烈に批判した。

メイン会場の周辺には、雇用問題を巡ってより強力な施策を求める左派労働組合のテントも点在し、この社会の強いイデオロギー的分断状況を示す事となった。

その事が示すのは、今の韓国の人々の圧倒的な関心が国外に対してではなく、自らの国内に向けられているという事であり、また――少なくとも彼らの理解する限り――この社会を巡る問題は実際、対外関係においてよりも、国内問題においてより深刻だ、という事である。

だからこそ、自らの民族への自信の高揚と相まって、対外政策、とりわけその重要性が失われつつある日本との関係は、彼らの視野には入らない状況になっている。

強調しなければならないのは、彼らの行動を理解し予測するためには、彼らの自意識がどの程度、客観的状況に一致しているかよりも、彼らの主観的認識それ自体が重要だ、という事である。

しかし、その事はまた彼らの主観的認識が客観的状況といかなる関係をも有していない、ということではない。

 

そして今、韓国を取り巻く状況は急速に変わりつつある。ハノイでの米朝首脳会談決裂後、米朝の協議は上手く進んでおらず、北朝鮮は核施設を再稼働させ、3月21日には、第3回南北首脳会談の合意により設置された南北連絡事務所から、自らの要員を撤収した。

2018年、文在寅政権が作り上げた対話の基盤は急速に失われつつあり、政権を支える進歩派勢力の中には動揺が広がっている。

このような状況の中、大きく膨らんだ韓国人の「自信」は突き崩され、彼らはもう一度、自らの足元を見つめなおすようになるのだろうか。

それとも、自らの「自信」の基盤の崩壊は、韓国をして更なる内なる対立を激化させ、対外関係を看過する方向へと導いていくのだろうか。

米朝の「仲介者」を任じる文在寅政権の出方と合わせて、大きな分水嶺になりそうだ。