文在寅政権を理解するために知るべき韓国の「歴史的高揚感」の実態

その主観的世界の中で日本は軽いものに
木村 幹 プロフィール

北からの突然の追い風

この段階では、それは韓国の一方的な「期待」にしか過ぎなかった。文在寅政権が成立した2017年春の段階では、米朝は激しく対立し、成立したばかりの文在寅政権が、この関係に関与する事は、難しいように見えたからである。

だが、機会は突然やってきた。2018年1月1日、恒例の「新年辞」の中で、北朝鮮の指導者たる金正恩が韓国との対話の意志を示したからである。

これに韓国政府が飛びつく形で始まった南北協議は予想外の速度で進み、わずか2ヵ月後の3月上旬、韓国政府は南北首脳会談を開催する事を発表した。

あわせて、韓国政府は北朝鮮からアメリカとの会談の提案を伝え、トランプ政権はこれを即座に受諾した。

 

韓国にとって重要なのは、こうして北朝鮮の依頼を受ける形で、事実上、米朝交渉の仲介者的役割を与えられた事であった。

韓国の仲介者的な役割はその後も続き、5月末にトランプ大統領が突然、米朝首脳会談の中止を発表した際には、直後に板門店にて第2回目の南北首脳会談を開催し、米朝のつなぎ役としての役割を果たす場面も存在した。

このような「北朝鮮とアメリカの間を韓国が仲介する」という状況こそ、正に文在寅政権や韓国の多くの人が望んできた事態だった。

ゆえに米朝協議の進展は、韓国にとってそれ自体の以上の意味を持つ事になった。協議の進展以上に、協議に韓国が介在している事が重要であり、その介在が一定の意味を有している事が特別な意味を持っていた。

つまり、この状況が示すのは、朝鮮半島という名の自動車のドライバーズシートに座っているのは韓国であり、米朝は朝鮮半島という自動車を韓国が望まない方向へと導く事はない、と文在寅政権は理解したのである。

だからこそこの状況は、韓国のナショナリズムを高揚させた。

彼らはいう。これまで小国として無視されてきた韓国が、遂に米中といった大国と並んで、朝鮮半島の行方を決める重要な協議に携わっている。このような事態の出現は、韓国が経済発展と民主化を遂げ、真の先進国の一員となった事の証なのである、と。