そして、取材時にも、「中学の3年間はバレー部に入ったけれど、僕には運動部は向いていないと思った。そもそもなぜ勝たなくてはいけないのかわからない」「苦手な人が現れたら、笑顔でやりすごす」「結婚は、妻からのアプローチ。婚姻届けを持ってきた」等々、ヨシタケさんからは、さまざまな受け身エピソードが湧き出てくる(もっと聞きたいくらいだ)。

そんな後ろ向きの言葉を解説するヨシタケさんは、少し楽しそうにさえ見える。試行錯誤を繰り返し、身につけた、この生きづらいこの世の中を渡っていくための自分なりの「処世術」──、それがこういう考え方、生き方だからだろう。

「こういう生き方はよくないって人、いますよね、きっと。思春期を経て、こじらせてこんな風になりました(笑)」

ネガティブだからこそ心がわかる

そう自嘲気味に話すヨシタケさんだが、著書のなかではきっぱりと、「自然とそういうふうに進化してったと思ってます」と書いている。そんなヨシタケさんの絵本に子どもたちが夢中になるのは、彼が自分たちの理解者だからにほかならない。

「僕は子どもの頃のことをよく覚えているので、子どもの気持ちがよくわかるんです。絵本には、小さい頃の僕なら、こう語りかけてくれたらうれしいなとか、僕が好きだった、絵本の要素を盛り込んでいます。ただ、そう言うと、そんな本が好きなのは、お前しかいないと言われてしまうかもしれない(笑)。

でも実際に、自分の息子を見ていると、僕の子ども時代のと同じことをやっていたりするんです。教えてもいないのに。それを見たときに、もしかしたら世界中の子はみんな同じようなことをやっているんだろうなって、思ったんです。僕にとって子育てや、絵本づくりは、小さな頃の自分の体験との答え合わせのようなものでもあるのです」

そして、彼の絵本に大人たちもまた、魅了されるのは、子ども時代の気持ちを抱いている大人が多いからではないだろうか。もしくは、ヨシタケさんの言う「常に言い訳を考えている弱い自分」に、知らず知らずのうちに同調している部分があるのかもしれない。

ヨシタケさんは手帳にいつもイラストを描いている。ネタとして描いているというよりも、描きたいからかいているのだ

ヨシタケさんは言う。「他人は頭の中までは入って来られません。何を考えようと自由です」。

でも、ネガティブ上等なヨシタケさんは、ここでも一言付け加える。

「絵本を書くときも、こういう言い方なら怒られないだろう、これなら怒られても反論ができる、などと考えながら描いています。そんな風に、いろいろ考えて出した本が喜んでもらえるというのはうれしいですよね、やっぱり」

ポジティブに、ポジティブにとばかり言われる世の中だが、ネガティブに考えることは決して単に悪いことじゃない。ネガティブに考えてしまって落ち込むよりも、ネガティブを上手に回してポジティブに利用している。それがヨシタケさんの技なのだ。自分が楽に生きられるなら、それはそれでいいのではないだろうか。ネガティブな思考を否定して、さらに落ち込んでいたら、それこそ“燃費が悪い”のかもしれない。

ヨシタケシンスケ:1973年生まれ、神奈川県出身。筑波大学大学院芸術研究課総合造形コース修了後、会社勤務中からイラストレーターとして活動開始。2013年、40歳の時に『りんごかもしれない』で絵本作家としてデビュー。MOE絵本屋さん大賞や産経児童出版文化賞を受賞。ブロンズ新社から出ているこのシリーズ『ぼくのニセモノをつくるには』『もうぬげない』『このあとどうしちゃおう』4作で100万部を突破。『思わず考えちゃう』は考えていることを常にイラストにしているというヨシタケさんの頭の中をのぞくことができる初のイラストエッセイ集である。