親からは可愛がられていたけれど

思わず考えちゃう』の中でも、怒られるのも怒るのも苦手だと記している。「大人になってからも、怒られなくてすむ方法を常に探しています」と、筋金入りだ。

「何かひどい目にあったわけでもないし、とくに苦労をした記憶もありません。心の癖みたいなものです」

冒頭に紹介した「そのこどく感はなにかの役に立つ」という言葉も、ヨシタケさんならではの哲学から出たものだ。

嫌な思いをしたら、この嫌な思いが何かの役に立つ、無駄にはしたくないって、思いたいじゃないですか(笑)。僕は、自分の考え方の軸になる部分の何かに役立てられるはずだ、と考えるようにしているんです。それが本当に役に立つか証明はできないけれど、役に立たないという証明もできません。ネガティブな思考をいかにプラスに転換できるか、そのための思考のバリエーションを増やすことを、日々、一生懸命考えています」

どうすれば怒られないかを考えながら生きてきたというヨシタケさんは、早い段階で、「物事は言い方ひとつで、良いようにとらえることも、悪いようにも取られることもある。同じことを主張するにも、怒られる場合と怒られない場合があり、どちらを選ぶかは自分次第」ということを理解したという。

「人一倍、想像力が敏感なんです。とくに悪いことに対する想像力は半端なく、悲惨なニュースを見ていると、本当につらくなってしまうので、そういった話題は必死でシャットアウトするようにしています。

想像力って、“良いこと”だというイメージがありますが、実は諸刃の剣で、良いようにも悪いようにも使われるんですよね。僕はどうしても悪いほうに考えがちなので、自分で自分を説得し、一生懸命、良いように考えるようにして、ようやくスタート地点に戻るということを繰り返しています。そうなんです、燃費が悪いんです(笑)。ただ、今はその想像力を仕事に生かすことができるので、ありがたいです」

ネガティブはダメなのか

もともと作家になりたかったわけではない。

「作家は自己顕示欲があって、俺を見てくれと駅前でギターをかきならすような人がなる職業だと思っていました。作家とかアーティストと呼ばれる人間には、ならないだろうし、なれないだろうし、なろうと思ってもいませんでした。いろいろあって、今、作家という職業についていますが、自分が主張したいことがなくても作家になれるということにまず驚きましたし、言いたいことがないということを、主張してもいいんだという気づきがありました」

『思わず考えちゃう』には、主に後半を中心に、自己啓発本の作者が「なんたるネガティブ!」と卒倒しそうな言葉が次々と出てくる。

もう明日やるよ。すごくやるよ
日々、生きていると、その99%は『どうでもいこと』
ボクはあやつり人形。誰か、あやつってくれないかな
幸せとはするべきことがはっきりすること
自分の意見を相手にぶつけるっていう選択肢がない

ネガティブな考え=悪いものと見なされがちな昨今、なんだか新鮮だ。

©ヨシタケシンスケ『思わず考えちゃう』より