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# 経営者

ゴーンもかつてそうだった…組織のトップは概ね「ゴマすり屋」である

プーチン、ノリエガ、豊臣秀吉……

日本史上最大のゴマすりは?

たぶん読者のほとんどは「ゴマすり」という言葉によからぬイメージを持っているであろうし、筆者も同様である。

しかし、「ゴマすり」を「上司の意図を素早く理解し、迅速に実行する。かつ、上司の気持ちを安らかにする」人材と言い換えたらどうだろうか?かなり印象が変わるのではないだろうか?

筆者は静岡県浜松市の生まれだが、少年期・青年期の大部分を関西(大阪・京都)で過ごしたので、「太閤さん」には敬意を払うとともに大いに親しみを感じている。

しかし、それでも、日本史上最大の「ゴマすり」は豊臣秀吉だと思う。有名な「織田信長の草履を胸元で温めた話」は木下藤吉郎の機転をほめたたえる逸話だが、藤吉郎の同僚たちが「このゴマすり野郎!」と叫んだであろうことは確信できる。

また、木下藤吉郎から羽柴秀吉に改名するときには、 織田信長の臣下でも最も有力な武将(藤吉郎の上司とも言える)である丹羽長秀と柴田勝家の「羽」と「柴」をもらった。かなりあからさまな「ゴマすり」だ。

織田信長のような「創業者」を別にすれば、戦国武将といえども、天下という組織のトップにはゴマすりをしなければなれない。否定的な意味だけでは無く、上司に忠実でコミュニケーション能力が高いということである

 

カルロス・ゴーンと明智光秀

いわゆる「カルロス・ゴーン事件」については、色々なメディアで多くのコメントがなされているので、裁判で争われている内容などについてはここでは触れない。

むしろ筆者が注視するのはゴーン容疑者の鮮やかな「ゴマすり」ぶりである。

ゴーン容疑者の両親はレバノン人だが、彼自身はブラジル生まれで、中等教育はレバノンのベイルートで受けた。フランスの工学系グランゼコールの1つであるパリ国立高等鉱業学校を卒業しているので、エリート階級に属する。

しかし、同じくレバノン人である「ブラック・スワン」(念のためバレリーナの話では無い。金融の本)で有名なナシム・ニコラス・タレブの著述を読めば分かるように、1975年のレバノン内戦以後の状況が、ゴーン容疑者の内面で「ハングリー精神」を強化した可能性を否定できない。

何しろ、血統正しいフランスのエリート中のエリートであるグランゼコール卒業生の集団の中で生きてきたのである。この集団の中では、ゴーン容疑者は決してエリートではない。

彼が実力を発揮したのは「クビ切り屋」としてである。フランスをはじめとする欧州では、労働組合が強く、労働法の規制も厳しいので、従業員を解雇することは簡単では無い。だから、リストラは「血みどろ」になりがちなので、貴族やグランゼコール卒業生が中心の経営陣は手を汚したくない。

実際、欧州系企業は東京支店などに、「クビ切り屋」を兼ねた支店長を送り込むことがよくある。それまでの支店長は、スタッフとの人間関係もできているし、大概エリートなので自分の手は汚したくないため、リストラの前にさっさと本国に帰る。

新任のクビ切り屋の支店長は、容赦なくリストラを2~3年かけて行い、そのクビ切りで節約できた人件費の何割かをボーナスとしてもらって、凱旋帰国する。その後は、またエリートが後任の支店長としてやってくるのだ。

ゴーン容疑者は、その汚れ仕事を進んで引き受け上司にゴマをすって気に入れられたため、日本を代表する日産自動車の社長兼「クビ切り屋」として抜擢されたのである。

ただ、機知に飛んだ豊臣秀吉は、「墨俣一夜城」や「中国大返し」のような前向きで大胆な戦略も多用したが、ゴーン容疑者の能力は「コストカット」に尽きる。

企業経営における経費削減努力の重要性は、投資の神様ウォーレン・バフェットも常々強調するが、それだけでは会社は発展しない。

秀吉の成功の重要な点に「部下にもゴマをすった」ことがあげられる。庶民の心理を理解し、彼らをうまく誘導したからこそ、「墨俣一夜城」や「中国大返し」のような劇的な作戦が成功したのだ。豊臣秀吉が「人たらし」と呼ばれるのも当然だ。

それに対して、リストラという汚れ仕事で多くの人の恨みを買ったのに、そのまま帝王のように居座ったゴーン氏が、明智光秀ならぬ西川廣人社長に謀反(クーデター)を起こされたのも当然といえよう。

明智光秀同様、西川社長の「本能寺の変」の動機もはっきりしないが、ゴーン容疑者が多くの人々の恨みをかっていることだけは確かである。ゴマをするべきなのは上司だけでは無く、部下に対しても同様なのだ。部下にゴマをすることができるかできないかが、豊臣秀吉とゴーン容疑者の差といえる。

また、晩年の豊臣秀吉が失策続きで、死後ほどなくして徳川家康に天下を取られることになったのも、権力に酔いしれて「部下にゴマをする」ことを怠ったからかもしれない。