このままでは死者1000万人の「耐性菌」を倒すウイルス治療法とは

「ファージ」注入で感染症が消滅した!
ローラン・ニアガード

自然界における細菌の捕食者であるファージは、種類によって異なる細菌株を標的とする。ファージは、20世紀初頭に赤痢の治療で初めて使われたが、チャン氏は現在、多種多様なヒトの感染症を攻撃する種類のファージを探すために、側溝や池、さらには下水処理場のような場所にまで足を運んでいる。

「最適な場所というのはたいていひどく汚い場所だ。人間は汚い動物だから」(チャン氏)

菌を「食べる」ウイルス

チャン氏は、べとべとした茶色の細菌で覆われたペトリ皿の中に、バラサさんを救う望みがあると考えた。

バラサさんには嚢胞性線維症という遺伝疾患がある。この病気によって、バラサさんの肺は損傷を受け、細菌を内側に閉じ込めてしまう。その細菌の1つが緑膿菌というスーパー耐性菌だ。

彼女は毎日、抗生物質を吸入することで、昨年の秋までは緑膿菌感染症を抑えていたが、秋以降はその抗生物質が効かなくなった。そして最後の手段である、抗生物質の静脈内投与もあまり効果がなかったのだ。

チャン氏はバラサさんの痰から取り出した緑膿菌を培養した。そして、鍵となるテストをした。緑膿菌がべっとりと広がるペトリ皿に、その菌を標的とするファージをたらしたのだ。すると、ファージが周りの緑膿菌を食べるにつれて、透明な円がいくつも現れた。

緑膿菌チャン氏が示したペトリ皿 Photo by Richard Drew / AP

しかし、実験室でうまくいったことが、実際にバラサさんの肺を救う手段になるだろうか。

抗生物質を出し抜く細菌

米疾病対策予防センター(CDC)が2013年に発表した報告書によれば、アメリカでは毎年、耐性菌感染症を直接の死因とする死者が少なくとも2万3000人にのぼっており、さらに多くの人が関連する合併症で死亡しているという。

CDCは最新データの発表を予定しているが、他の研究では、死亡者数はCDCの数字の7倍になる可能性があると推定している。

さらに、多くの国では正確な統計がないが、よく引用されるイギリスの報告書によると、解決法が見つからないかぎり、2050年には、世界中で最大1000万人が耐性菌感染症で死亡するようになるという。

これは現在のがんによる死亡者数をわずかに上回る数だ。