細菌に取り付くファージ Illustration by Getty Images

このままでは死者1000万人の「耐性菌」を倒すウイルス治療法とは

「ファージ」注入で感染症が消滅した!
米国で毎年2万人以上の生命を奪う「薬剤耐性菌」。このままでは2050年に全世界で1000万人の死亡者を出すとの予測も出ている。だがハワード・ヒューズ医学研究所とAP通信は、「ウイルスが耐性菌を倒した」ケースを発見し、研究者にも患者にも取材している。いったい何が起きているのか──。

エラ・バラサさんの肺の奥深くに住み着いた細菌は、どんな抗生物質を投与してもびくともしなかった。

もはや息をするのも苦しくなった26歳のバラサさんは、ある劇的な実験的治療法に頼ることにした。下水から取り出したウイルスを意図的に吸入して、その「スーパー耐性菌」を攻撃させるのだ。

「他に選択肢はありません」と言うバラサさんは、バージニア州リッチモンドの自宅からイェール大学まで、頼みの綱の治療を受けるためにやってきた。

「効果がない場合があるのもわかっています。でも、私は希望を持っています」

耐性菌エル・バラサさん(右)とイェール大学の生物学者ベンジャミン・チャン氏 Photo by Richard Drew / AP

万策尽きた患者の希望の光は「ファージ」

ある微生物を攻撃するのに別の微生物を用いるというのは、過激なやり方に聞こえるかもしれない。だがこれは、危機的状況が世界規模で進みつつある証拠だ。

ありふれた細菌の多くが、複数の抗生物質に耐えられるように進化したせいで、以前なら簡単に治療できた感染症で亡くなる人が増えている。

そうした抗生物質耐性菌のなかでも、「悪夢の細菌」と呼ばれる耐性菌には治療方法がない。科学者らは現在、従来の抗生物質に代わる治療法を見つけようと急いでいる。感染症に対抗する変わった方法を発見するために、変わった場所を探し回っているのだ。

たとえば、「細菌をだまして、生きるのに必要な栄養を奪う」という治療法が考えられる。あるいは、「免疫系を活性化して、細菌の攻撃をうまくかわせるようにする」という方法もある。

そしてわずかな数の緊急患者では、バクテリオファージ(ファージ)というタイプのウイルスを使う治療法が試みられている。ファージが発見されたのは1世紀ほど前だが、より使いやすい抗生物質が登場したため、西側諸国ではほとんど使われてこなかった。

イェール大学の生物学者ベンジャミン・チャン氏は、「抗生物質耐性をめぐる人々の焦りは深まっている」と語る。世界中を旅してファージを採集しているチャン氏のもとには、回復の見込みのない患者から、ファージ治療を試したいという電話がかかってくる。

「代わりの治療法が必要だということがはっきりしてきている」