多様な人材に活躍の場を

働き方改革の取り組み事項の一つが、多様な人材に活躍の場を与えることである。多様な労働者を登用し、その特徴や強みを活かすのだ。

高齢者を積極的に活用している例として、石川県の菓子メーカー「株式会社オハラ」の事例を紹介しよう。同社では2010年代に入った頃から、高齢者にパートタイムで働いてもらうことにより、人手不足解消に取り組んでいる。そのことについて『商工石川』という媒体の新春座談会で、社長から直接、お話を伺った。

全体で80名程度の企業なのだが、そのうち約4分の1が60歳以上の高齢者パートで、その平均年齢は70歳だ。通常のパートは朝9時から勤務開始だが、高齢者には早朝5時から9時まで働いてもらっている。「朝が早い」という高齢者の特徴をうまく活かしている。

高齢者の強みはそれだけではない。業務上のルールをよく守るのだ。遅刻も無断欠勤もしない。さらに「何のために働くのか」「会社とは何か、仕事とは何か」が長年働いてきて、身体に染みついているため、人生の先輩として若い従業員たちのお手本になっているという。

高齢者のパートは「アフター5」ならぬ「アフター9」も充実している。朝からカラオケや、競艇に行くなどしている。そんな彼らが人手不足を補っている。

また、このオハラ社は「稼ぎ方改革」にも成功している。地元のブランド産品であるさつまいも、五郎島金時の規格外品を活用していることが大きな特徴だ。

五郎島金時は、砂丘で育てるため本来はすらっとしているが、天候不順等の影響で、大きくなり過ぎたり、曲がったりした見た目が美しくない規格外のものができる。そもそもブランド品であるがゆえに、検品が厳しく、規格外が増えやすいのだ。

同社は規格外となったさつまいもをペーストに一次加工して大手コンビニチェーンに納入することで、この五郎島金時ペーストを使用したパンやようかんが全国で販売されるようになった。これによる仕事の増加を高齢者パートが担っている。

このように、多様な人材のそれぞれの特徴や強みに着目した取り組みは参考になる。また、ビジネスの稼ぎ方まで変革している点も評価できるといえるだろう。

まずはトイレをきれいにする

人材の獲得、定着のためには、より良い労働環境が必要だ。オフィスの改善も取り組み事項の一つである。

特に資金調達に成功したベンチャー企業などによく見られるパターンだが、事業拡大のために、オフィスに投資するのは成長企業の定石ではある。アクセスの良い場所に、オシャレで機能的なオフィスを構える。ブランディングにつながるのは言うまでもない。取引先の信頼を勝ち得ることができるし、採用力の向上にも直結する。

職業柄、さまざまなオフィスを訪問する機会が多いが、最近ではユニークな会議室を設けている企業や、社内バーラウンジを設置する企業などをよく見かける。IT企業を中心に、オフィスの近くに住む人の住宅手当を増額する取り組みも広がってきた。

もっとも、このような事例については「それは大手の話でしょ」と言いたくなる方も多いことだろう。おっしゃる通り、これは資金に余裕のある企業の事例であることは間違いない。

ただ、ここまで予算をかけなくても、従業員の満足度向上につながる取り組みも、ある。それは、トイレに投資することである。

実は中堅・中小企業を中心に、女性の採用を強化するための定番パターンがこれなのである。トイレを男女共用のものから、別々のものにする、そして特に女子トイレをきれいにする。

オフィスを移転したり、大改装するにはお金がかかる。しかし、トイレだけなら少ない投資で大きなリターンを得ることができるのだ。

今回は3つのケースを紹介した。いずれも、意欲のある経営者がいる企業、資金に余裕のある企業の事例に思えるかもしれない。しかし、従業員にイキイキと働いてもらうために、人材の採用と定着がうまくいくために、どれも必要な取り組みだといえる。

最近では、中堅・中小企業向けのITソリューションや、安価なオフィス家具なども増えてきた。これらを組み合わせ、よりよい労働環境を創れるか否かが、採用氷河期を乗り越えるためのカギとなるだろう。

「働き方改革格差」はたしかに、企業規模や予算が影響する部分もあるだろう。しかし、だからといって放置してはいけない。中堅・中小企業に一歩踏み出す勇気を期待したい。