「働き方改革」は誰のものなのか?

興味深いデータがある。2019年1月9日に日本商工会議所が発表した「働き方改革関連法への準備状況等に関する調査」である。

これは同団体が、2018年10月22日から12月3日にかけて、2,881社を対象に(回答企業数2,045 社)各地商工会議所職員による訪問調査により実施したもので、今年4月から順次施行される「働き方改革関連法」に関する中小企業の認知度や準備状況などを把握するため、さらには今後の同団体の政策提言などに活かすために行われた調査である。

結論から言うと、中堅・中小企業における認知度は十分とは言える状態ではなかった。今後始まる労働時間規制に関する認知度は約60%、有給取得の義務化は約75%だった。

もちろん、この結果には中堅・中小企業への施行時期も関係している。労働時間規制について、大企業は4月から施行だが、中堅・中小企業は来年なのだ。

有給取得の義務化は企業規模にかかわらずこの4月からスタートするので、労働時間規制に比べて認知度が高くなっている。しかし、取引先が大企業の場合、大いに関係ある話だ。この時期に、この認知度は問題アリではないか。

もっとも、この数字は私が常々、問題視してきたことを可視化している。それは、「働き方改革格差」である。大企業と中堅・中小企業の間で、働き方の認知度にも取り組み状況にも、差が広がっていないだろうか。

もうひとつデータを見てみよう。HR総研(ProFuture株式会社)が2019年2月に人事担当者、働き方改革担当者に対して行った「働き方改革実施状況に関するアンケート」のデータを確認したい。この調査はWEBアンケートにより行われ、218件の回答があった。

【図表】「働き方改革」に取り組んでいるか? 出所:HR総研「働き方改革実施状況に関するアンケート」

「働き方改革」に取り組んでいるかという問いに対して、全体では「積極的に取り組んでいる」という回答が29%、「一部、取り組んでいる」54%、「取り組みを検討中・予定中」が13%となっている。

ただ、このデータは従業員数別に見ると差が目立つ。

「積極的に取り組んでいる」は、1001名以上の企業が42%なのに対し、301~1000名の企業が27%、300名以下の企業が21%となっている。

1001名以上の企業と300名以下の企業では実に21ポイントもの差が開いている。この結果は、大企業と中堅・中小企業の「働き方改革格差」を可視化していると言えるだろう。

「働き方改革格差」を誘発するのは、単に予算や検討する体制の差だけではない。大企業が働き方改革を進めるがゆえに、仕事を受託する中堅・中小企業や、フリーランスなどにしわ寄せがいくということもありうるのだ。

もちろん、大企業でも働き方改革疲れとも言える現象が散見されてはいる。「働き方改革」と言いつつ、「早く帰ろう運動」に矮小化されている例や、経営トップ層や人事部が掛け声を発するものの現場に丸投げ・・・結果として「時短ハラスメント」を誘発している例は枚挙に暇がない。何のための働き方改革なのか。

筆者は2017年に「長時間労働是正」や「働き方改革」に関する書籍を発表した。その頃から現在にかけて「働き方改革」に関する講演依頼が殺到している。依頼主は政党、官庁、自治体、経済団体、労働組合、学校法人、マスコミなど実に様々だった。

なぜ、これだけ多様な組織から、講演のオファーが殺到したのか? それは、「働き方改革」に誰もがモヤモヤしていたからに他ならない。みんな「早く帰れ!」「でも売上は落とすな!」という矛盾に向き合っているのだ。

働き方改革関連法案に関しては、実は経済団体も労働組合もモヤモヤしている。経済団体にとっては「規制強化」という側面も強い法案だ。労働組合にとっては、長時間労働の規制など長年の悲願を達成したものの、一部ではむしろ労働強化につながるような取り組みも容認されたことについて不安を抱いている。

中でも、この大企業と中堅・中小企業の「働き方改革格差」には注目せざるを得ない。「働き方改革」と聞いて「それは、大手の話でしょ」で片付けてはいけない。この格差による、中堅・中小企業の労働強度の増進は避けなくてはならないのだ。