強制性交の罪が成立するには、“故意”が必要だ。つまり、「彼女(相手)の意思に反して、無理やりやっている」、あるいは、「彼女は意識を失っている」「いま、彼女は抵抗できない状態だ」と、被告人が認識していなければ、強制性交罪は成立しない。過失犯のない強制性交罪においては、被告人に故意がなければ、無罪になる

前述の例では、「彼女(相手)に意識があると思っていた」「同意してくれていると思っていた」などと反論する弁護側は、「家に着いた時、鍵ある? と言ったら、鍵を探して渡してくれた」「家に入ってもいい? と聞いた時、うなずいた。だから揉めることもなくスムーズに入ったのだ」「行為中も抵抗がなかった」「終わった後、彼女はすぐに警察を呼ばなかった」「前々から、二人の関係は相当に親密だった」などと主張し、それに沿う証拠を提出し、防御を試みるだろう。

この男性側の言い分を立証するのは、容易ではない。その場に二人しかいないことが多く(もし輪姦だとしたら、なおさら、その行為に対して同意があったという事実は認められにくいだろう)、証拠は本人の言い分しかない、という場合が多いためだ。

にもかかわらず、福岡地裁の西崎裁判長は、故意がないと認めて被告人を無罪とした。ご存じのとおり、我が国の刑事裁判において、無罪判決はめったに出ない。検察側は極めて慎重に証拠を検討し、無罪判決が出る可能性があると考える事件は、起訴しない。本件でも検察は、よくよく証拠を検討し、有罪判決をとれると確信してから起訴に踏み切っただろうと想像する。

だが裁判所は、それを覆した。いったい、どのような事実認定だったのだろう。

法的に「勘違い」で済まされる現実

強制性交罪の故意がない、ということは、きわめてざっくりいうと、男性側が「勘違い」をした、ということだ。私は特段、刑事専門の弁護士ではないが、それでも「勘違い強姦事件」は何度か扱ったことがある。

泥酔状態にある時、人は必ずしも動けず、しゃべれないわけではない。ある程度の会話ができ、ふつうに家に帰ることもできるけれど、本人にその時の記憶が一切ないこともある。いわゆる「ブラックアウト」状態だ(詳しくは、アルコール健康医学協会のHPを参照)。だからこそ、男性側の「勘違い」(あるいは、そう主張する余地)も生じ得る。

女性がいくら「泥酔していて、拒絶できなかった」「抵抗できなかった」と主張したところで、男性側が「彼女は合意している」と勘違いする余地がある限りは、無罪判決がでる可能性はゼロではない

事件が生じてから相手を告訴し、逮捕、起訴に至ったとしても、性的被害を受けた女性の精神的な傷や、壊された日常が回復するわけではない。相手が起訴され公判になれば、女性は証人として法廷で当時のことを事細かに尋ねられ、さらに精神的に苦しんだ挙句、相手が無罪判決を得る、ということも現実にあり得る。性犯罪の被害者にとって、現行の法律は味方とは限らないのだ。

福岡地裁の判決に対し、怒りと絶望を覚えた女性は多いだろう。ただ、法律家としては、同判決が納得のいくものなのか、実際のところは判決が確定して判決内容の全文が公開されるまではわからない。控訴され、控訴審で審理される可能性もある。まずは行く末を見守りたい。

※平成29年の刑法改正を機に、「強姦罪」「準強姦罪」から「強制性交等罪」「準強制性交等罪」に変更に。かつての強姦罪は女性しか強姦罪の被害者たり得なかったが、強制性交等罪は13歳以上の男女が被害者として認められるようになった。