去る3月12日、福岡地裁久留米支部が準強姦の罪に問われた男性に下した無罪判決が波紋を呼んでいる。相手の女性は飲酒により「抵抗できない状態」にあったと認めながらも、なぜ男性を無罪としたのか。弁護士の野島梨恵氏が判決が下された背景を考察する。

福岡地裁久留米支部と静岡地裁浜松支部が、時を置かずして、強制性交などに関連する罪名に問われた被告人に対し、無罪判決を言い渡したとの報道が流れた。

いずれも、まだ判決全文が手に入らず、報道ベースの情報しかないが、まず、男性が準強姦罪1(平成29年の刑法改正前の名称。現在は準強制性交等罪)に問われた福岡地裁の判決では、「女性はテキーラなどを数回一気飲みさせられ、嘔吐して眠り込んでおり、抵抗できない状態だった」と、事実認定をしたものの、そのうえで、女性が目を開けたり、何度か声を出したりしたことなどから、「女性が許容している、と被告が誤信してしまうような状況にあった」として、男性に無罪判決を言い渡したと報道されている(2019年3月12日付の「毎日新聞」より)。

被告人の行為は女性が性交に同意していると誤信して行ったものであり、被告人には、女性を強姦するという意思(つまり、故意)がない、したがって、無罪である。という内容の判決なのであろうと推測される。

次に、静岡地裁の判決だが、これは裁判員裁判による判決である。女性に乱暴し、けがを負わせたとして、強制性交致傷の罪に問われた男性に対し、判決では、「被告人が、自身の暴行が(女性の)反抗を著しく困難にする程度のものだと認識していたと認めるには合理的な疑いが残り、故意が認められない。犯罪の証明がない」ため、無罪である、と判断したと報道されている(2019年3月20日付「静岡新聞」より)。

いずれの判決も興味深く、ぜひ判決全文を読んでみたいものだが、法律家として特に気になるのは福岡地裁の判決のほうだ。女性が抵抗できない状態であったことを認めながらも、なぜ裁判長は無罪判決を下したのか。

争点は、「故意」があったか否か

準強制性交等の罪について定める刑法178条2項は、「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者」について、強制性交の罪とする、と定めている。

ざっくりいうと、相手に酒(やら怪しいクスリやら)を飲ませてひどく酔わせ、意識を失わせたり、あるいは抵抗できない状態にして、同意のないまま性行為に及ぶ、というのが準強制性交罪である。この罪名で、非常によく出てくる男性側の反論が、「女性の同意があった」、あるいは、「女性の同意は、本当はなかったのかもしれないが、その時、男性側は、女性が性交に同意しているものと信じていた」、という、いわゆる和姦の抗弁である。

たとえば、男性が女性と二人で酒を飲んでいたが、彼女が酔っ払って寝込んでしまったとする。

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男性は彼女を自宅まで送り、水を飲ませるなどして介抱して寝かせ、「大丈夫?」と声をかけると、彼女は薄く目を開けて、うなずいた。彼は以前から彼女に好意をいだいていたので、「好きだよ」「いい?」などと聞き、彼女が続けてうなずいた(ように見えた)ので、行為に及んだ……という場合を想定してほしい。

彼女の方は酔っており、自宅まで送ってもらったことも、介抱されたことも、大丈夫かと声を掛けられたことも、全く覚えていない。気が付くと行為が終わっており、激しいショックを受ける。強姦されてしまった、と思う。

だが、彼の方は、家に連れ帰って介抱した段階で、彼女の意識は戻っていると思い込んでいた。したがって彼としては、「無理やりやった」「意識がない、あるいは抵抗できないのをいいことに、彼女の真意に反して性交した」という覚えはない。それなのになぜ強姦などといわれるのだ? という言い分になる。