──山田風太郎賞に続き、直木賞受賞おめでとうございます。
真藤 ありがとうございます。
──直木賞の贈呈式で、平山夢明さんへのお礼を述べていらっしゃいましたが、どのようなご関係なのでしょうか。
真藤 作家になりたくて小説を濫読していた頃に、現役の作家さんで最も衝撃を受けたのが平山作品でした。短編集『独白するユニバーサル横メルカトル』に驚倒して、あのような唯一無二の作品世界を築かれていることに憧れを抱きました。
平山さんに初めてお目にかかったのは、2008年にデビューした頃で、ウェブ媒体でベテラン作家と新人が対談する企画があり、平山さんが大好きだったのでお願いしたら実現しました。
それ以来、遊びに連れて行ってもらったり、他の作家さんを紹介していただいたりして、勝手に弟子と名乗っています(笑)。
──『宝島』は、米軍から物資を盗む「戦果アギヤー」のオンちゃんが、巨大な密室ともいえるキャンプ・カデナから姿を消す本格ミステリー的な謎から始まります。
その後はオンちゃんの弟分たちの物語になり、警察官になったグスクのパートは警察小説、ヤクザになったレイはクライム・ノベルの主人公になり、教師になったヤマコは沖縄の本土復帰という歴史と政治のドラマにかかわっていきます。
こうした様々なジャンルがミックスされていく展開は、当初から考えておられたのでしょうか。
真藤 全体を貫くミステリーがあり、その中でどのように物語を動かし、どのように登場人物たちの人生を追い掛けていくかを考えた時に、青春小説、冒険小説、恋愛小説などをすべて内包する大きな物語にしたいと考えました。
デビュー当時から、一つのジャンルを追究するというよりも、様々なジャンルにまたがった総合小説を書きたいという意識がありましたから、『宝島』は現段階での集大成になりました。
──この作品は沖縄の近現代史を題材にされました。書きたいジャンルの中に、歴史小説もあったのでしょうか。
真藤 近現代史はありました。その最初が『墓頭』ですね。
──日本の歴史小説は、歴史の評価が定まっている戦国や幕末維新が中心になっています。近現代史は、資料が多く、関係者もご存命で、同じ事件でも解釈が分かれることが多いので、書くのが難しいように思えるのですが。
真藤 だから書くのかもしれません。僕は、歴史を勉強するというよりも、その時代を生きてみたいという想いが強いんです。
だから自分でできる限りの資料を読み、できる限りの時代感を入れて書くのですが、最もフィットして書きながら生きていると感じられるのが近現代なんです。
今の日本の形がどのようにできたのか知りたいという気持ちもあるので、戦後の日本がスクラップ&ビルドしていく中で、どこで間違え、何を失ってはならなかったのかを、今後も掘り下げていきたいと考えています。