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# 経済・ビジネス

いつから日本の「LCC競争」がこんなに激しくなったのか

未来の空旅はどう変わるか・その4
ピーチ、春秋航空、エアアジア、ジェットスター……日本ではいつからLCCの競争が激化してきたのか? そもそも、ANAとエアアジアはなぜ袂を分かったのか? 首都大学東京特任教授で交通政策が専門の戸崎肇氏が、航空の現況と今後の展望・課題について利用者目線から追っていく、連載第4回!

アジアで勃発した、LCC戦争

LCCが最も急激に成長を遂げているのはアジアである。それはアジアの経済発展の速度と完全に相関している。

その中でも成長が著しいのがマレーシアのエアアジアである。連載第3回でも言及したが、トニー・フェルナンデスという極めて個性的でバイタリティ溢れるカリスマ経営者が率いている。

トニー・フェルナンデス氏(photo by gettyimages)

2001年に経営破綻に陥った航空会社をタダ同然の値段で買い取った後(当然各種債務も抱えることになる)、格安運賃を武器に市場に対して猛烈なアタックをかけ、早くも2003年には黒字化させている。

ネットワークを拡大させ、今やアジア随一のLCCとなった。

 

また、インドネシアではライオン・エアーが誕生。2007年には、インドネシアの航空会社には安全性に問題があるとしてEU域内への乗り入れが禁止されるなどの向かい風は吹いたものの、インドネシアの経済発展にも支えられ、こちらもエアアジア同様、アジアの航空市場におけるプレゼンスを高めている。

この他にもアジアでは無数のLCCが誕生し、そのシェアはヨーロッパやアジアよりも急速に拡大している。

LCC(Low Cost Carrier)が急成長を遂げ、航空輸送でのシェアを拡大していくと、FSC(Full Service Carrier)の側も、顧客層が違うからといって、黙って見過ごすわけにはいかなくなった。

そこで、大手FSCは、次々と自らの傘下にLCCを設立させていった

自らの本来の顧客層であるビジネス・クラス利用者などの「高い料金を払っても利便性、快適性を優先させる層」をマイレージサービスなどでしっかりと囲い込みながら、LCCがターゲットとしている「とにかく安い運賃を望む層」にも、関連会社としてのLCCで攻めていこうというのである。

LCCの持つ2つのリスク

ただし、SFCがこうした戦略を採用すれば、同時に大きなリスクを抱え込むことになる。

1つは、どこまで親会社であるFSCと子会社、関連会社であるLCCとの間での棲み分けがきちんとできるかどうかである。

その事業領域における境界部分はどうしても明確に区分けできるものではなく、需要の食い合いになる部分はどうしても出てこざるを得ない。その重複領域が大きければ大きいほど、LCCをわざわざ傘下にもつことの意義は弱くなる。

また、もしそのLCCが何か致命的なミスや事故を起こした場合には、親会社であるFSCのブランド価値をも毀損させることになってしまう。

そのため、親会社であるFSCは、傘下のLCCに対してあまり斬新なアプローチをすることを望まない可能性が出てくる。

このことと関連するが、FSCの傘下にLCCを設立した場合、FSCから社長、役員など重要ポストに人材が送り込まれることが多い。

そうなると、送り込まれた役員たちは、古巣のFSCの慣習から根本的に脱却することができず、FSCの思考法・やり方を何らかの形で引きずってしまい、LCCにとって極めて重要である革新的なアイデア・手法の導入に対する抵抗勢力となる可能性が高くなる。

ヨーロッパの場合には、こうした問題が具体的に生じたことが報告されている。

このリスクを回避するために、後述するANAが立ちあげた日本のLCCであるピーチ・アビエーションの場合には、ANAから完全に転籍する形でピーチに人材を送り込んだ。退路を断つことで、ピーチを確実に成功させようとしたのである。

こうしたやり方が効を奏したのか、ピーチは日本のLCCの中で最も成功を収めているといっていい状況にある。