「職場だから許される暴力」は何一つない

心の病を引き起こす要因の1つに、上司や同僚、取引先などからのハラスメントが挙げられます。これは深刻な問題です。私なりの結論を言うと、「職場だから許される暴言や暴力行為」というのは何一つありません

たとえばあなたが外を歩いていたとして、道行く人からいきなり怒鳴られたり、頭をはたかれたりしたらどう思われるでしょうか。大変なことですし、ともすると警察沙汰になるかもしれません。職場だからといって、それと同じことをされていいはずはないのです。

あなたがまだ若いからとか、会社の社風がそうだからなどと考える必要はありません。自分が今まで生きてきた経験上、やられたら嫌なことは職場でも嫌だと言ってよく、そしてそれはやっている方が悪いのです。会社側に取り込まれず、客観的に判断してください。

もちろん、仕事でミスをしたり、きちんとしなかったりする従業員に対して、上司が注意するのは当然です。ただ、相手のミスを注意することと、人格を否定することは違います。内容が正しくても、怒りの感情に任せて相手を罵倒するのは、明らかに間違った行為です。

実は、偉そうに話している私も、後輩をきつい言葉でしかりつけたことがあります。今は深く反省しています。パワハラは、誰でも加害者になる可能性があります。部下にきつく当たる前にほんの少し冷静になり、1つの判断基準として「これを道端でやったらどうなのか?」と考えてみてください。

孤独にしない、させない

若くして亡くなった方の取材で、しばしば感じることがあります。それは、「職場で孤立していたのではないか」という点です。さほど残業をしているわけではありません。しかし遺書を読むと、明らかに仕事が原因だと思われる。かといって、殴られたり毎日怒鳴られたりしていたわけでもない。

こうした事案で原因を深掘りしていくと、「職場で誰とも話していない」という事実が浮かび上がってくるのです。

これは別に、その人がいじめられっ子だとか、無口で人見知りであるというわけではありません。社交的な人だったとしても、職場にうまく馴染めなかったとか、周囲はほとんど中年で自分1人だけが若かったとか。そういった理由で、同僚の誰ともフランクに話せないということが結構あるのです。

職場に腹を割って話せる人がいない、みんなから無視されたり、敬遠されたりしていると感じる。これほど辛いことはありません。そういう事態を防ぐためにも、職場で孤立している人がいたら放置せずに、声をかけたり上司に報告したりする。孤独にしない、させない気づかいをしていくことが大切だと思います。

働き方を見つめ直すための6ヵ条

最後に、私がまとめた「働き方を見つめ直すための6ヵ条」をご紹介しておきます。命より大切な仕事など、この世にはありません。過労死のない社会にするために、一人一人が働き方を見つめ直し、被害者にも加害者にもならない環境づくりをしていきましょう。

①働いた時間をチェックしよう!

自分の1か月の残業時間が分かりますか? 国が定めた基準によると、1か月に45時間以上で「黄信号」、80時間以上は「赤信号」です。忙しい人こそ毎日の始業・終業時刻を手帳にメモし、定期的にチェックしましょう。

②サービス残業はダメ!

タイムカードを通した後の「居残り」残業や、自宅で明日の準備をする「持ち帰り」残業をしていませんか? 賃金が支払われないサービス残業です(違法です)。これが多いと働いた時間が分からなくなり、会社に改善を訴えることもできません。

③パワハラに気をつけて!

残業時間が短い人でも心の病による「過労自死」の危険があります。心の病による労災認定のうち、最大の理由が「パワハラ」です。パワハラかも?と感じたら、すぐに加害者以外の上司や同僚、労働組合などに相談しましょう。

④心の不調はすぐに受診を!

メンタルヘルス不調の重篤化を防ぐ最大のポイントは、「早期発見・早期予防」です。「やる気が出ない」「最近だるい」と感じる人は、なるべく早く医療機関にかかりましょう。うつ病は日本人の国民病と言えるくらい広まっています。特別なことではありません。気軽に受診を。

⑤危なかったら、すぐ逃げて!

長時間労働やパワハラが横行する職場の風土は、そう簡単には変わりません。危ないと思ったら、すぐに退職を決断しましょう。転職活動はつらいけど、倒れてからでは遅い!

⑥退職後も注意を!

会社を辞めてもすぐに心身が復調するわけではありません。不調を感じるところがあれば病院で検査を受け、“過労時代”についた不規則な生活習慣も改めましょう。

構成/上田恵子

誰からも頼られていて、最後に自死を選んだ子煩悩な40代の市役所職員、ビデオ店であまりの過酷な労働で働けなくなり、辞めた半年後にくも膜下出血で亡くなった27歳……11人の実例を丁寧に取材し、「どうすれば過労死のない社会にできるのか」も分析している。働く意味と生き方について深く考えさせられる一冊。