頑張れば正社員になれる!

なぜアルバイトなのに、航太さんはそれほどまでに過酷な夜勤に耐えていたのか。それは「ここで頑張れば正社員への道が開ける!」と思っていたからです。彼は親孝行したいという思いが強い人で、250万円を超える奨学金の返済もありました。だからこそ、冬場のきつい労働にも弱音を吐かずに頑張っていたのでしょう。正社員になれるのかなれないのか不安な日々のなか、精神的にもかなり疲弊していただろうと思います。

2014年3月、航太さんは無事、正社員として採用されました。しかしその翌月、事故で亡くなってしまいます。事故の前日、午前11時に出勤した彼は、翌朝9時前まで夜通し働いていました。そして職場を出た30分後に事故を起こしています。いくらか仮眠や休憩を挟んだとしても、過酷な勤務による疲れが事故の原因になったことは明らかです。

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航太さんの一周忌に、遺族はグリーンディスプレイに損害賠償を求める裁判を起こしました。提訴をその時期に合わせたのは、命の重みを問いかけていることを、裁判官や社会に訴えたかったからです。

グリーンディスプレイ側は「睡眠不足や過労による居眠り運転が事故の原因だったと断定することはできない」と予想通りの反論をしてきたものの、航太さんの熱心な仕事ぶりや篤実な人柄については高く評価していました。過労死をめぐる裁判では、しばしば会社側が亡くなった人をけなすことがあることを考えると、グリーンディスプレイの航太さん本人への誠実な姿勢は異例ともいえるものだったのです。

提訴から3年がたった2018年2月8日。会社との裁判は「和解」という形で終わる見通しが立っていました。裁判長は、航太さんの死を「過労による居眠り運転事故」だったと認め、会社にも事故を避けるための努力を怠ったことを指摘。遺族に対して、約7600万円の賠償責任があるとの判断を示しました。

最後に裁判長は、こう高らかに述べています。

過労死のない社会は社会全体としての悲願である」。

和解内容は、遺族側の主張がほぼ100%認められた会心のものでした。傍聴席で裁判長の言葉をメモしながら、私は胸が熱くなったことを覚えています。

「やる気」に甘えきらない

過労死を社会問題として報じるメディアの側にも、犠牲者は出ています。2013年、NHKの記者・佐戸未和さんが、31歳という若さで世を去りました。大型選挙の取材班に加わり、参院選の投開票の3日後、うっ血性心不全で倒れたのです。

未和さんの両親は労災を申請。その翌年には労災が認められました。渋谷労働基準監督署の認定によると、死亡前の1か月間、休日はわずか2日だけ。午前0時過ぎまで働いた日が15日もありました。残業時間は159時間37分。その前の1か月は146時間57分でした。

未和さんは、過労死ライン(月80時間)の倍近い長時間残業を、少なくとも2ヵ月続けていたことになります。過労死であることは明らかでした。記者という仕事の性質上、実際の労働時間はもっと長かった可能性もあるでしょう。

会社には、社員を安全に働かせるという法律的な義務があります。未和さんの事例のように、本人のやる気を「悪用」することがあってはなりません。その人がどれくらい働いているのか、体調を崩していないか、上司がしっかりと目を光らせていなければならないのです。それは上司の役目であり、義務であるとも言えます。

命を失ってもいい仕事はひとつもない

頑張りたいという気持ちは素晴らしいことです。しかし、命を失ってもいい仕事というのはひとつもありません。私自身が「頑張りたい」「認められたい」という気持ちのみで突き進んでいたからこそ、「危なかった」と感じています。やる気のある社員は働きすぎの状態に陥る恐れがあることを前提として、会社側が細かく注意することが大切なのです。

今回挙げさせていただいた若者の過労死の事例は、長時間労働が原因のものでした。しかし、「過労死」の問題はそれだけではありません。次回は、「仕事をきっかけとして起こる死」についての他の例と、それを「しない・させない」ために、私が感じたことをお伝えしたいと思います。

構成/上田恵子

誰からも頼られていて、最後に自死を選んだ子煩悩な40代の市役所職員、ビデオ店であまりの過酷な労働で働けなくなり、辞めた半年後にくも膜下出血で亡くなった27歳……11人の実例を丁寧に取材し、「どうすれば過労死のない社会にできるのか」も分析している。働く意味と生き方について深く考えさせられる一冊。