あれから5年…ウクライナ危機を「他人事」と思ってはいけない

もしも、は日本でも起こりうる
真野 森作 プロフィール

クリミア編入とは何だったのか

さて、5年前のことだ。ロシアによるクリミア制圧と編入強行の前段には、ウクライナの首都キエフにおける政変があった。ヤヌコビッチ政権の腐敗と親露的な外交政策の選択に親欧米派の市民の怒りが爆発。2013年11月、首都中心部の独立広場を占拠してデモを開始した。これに極右勢力が合流し、2014年2月には治安部隊との衝突で100人超の死者が出た。

2月下旬、政権と主要野党の間で危機打開へ向けた合意が結ばれたその日に、ヤヌコビッチ大統領は逃げるようにして首都を離れ、デモ隊側が大統領府を占拠するに至る。議会でも与党からの離反者が相次ぎ、政権は崩壊。反露・親欧米路線の暫定政権が誕生した。

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これを許せなかったのがプーチン政権のロシアだ。旧ソ連においてウクライナはロシアに次ぐ大国であり、両国は共にスラブ系国家として「兄弟」のような深い関係にあった。歴史、文化、経済、軍事技術の結びつきに加え、市民レベルでも縁戚関係は当たり前としてある。

国際社会においてロシアが自国を中心とした「一極」の地位を獲得・維持するには、不可欠の存在がウクライナだった。それゆえにキエフでの反露政権誕生をロシアは容認できない。想像していただきたい。もし仮に日本が米国から離反する動きを見せれば、米国も黙ってはいないだろう。その極端な例として示したのが冒頭の架空戦記だ。

 

少し歴史をさかのぼると、1991年のソ連崩壊以降のロシアは負け続けていた。「冷戦の勝者」を自認する米欧は、ソ連の影響下にあった旧東欧圏の国々やバルト3国を次々と欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に取り込んでいった。その背景には、かつてソ連がこれらの国に対してとった横暴な振る舞いの記憶があったはずだ。

また、経済や文化など米欧のソフトパワーも吸引力として働いただろう。最終的には加入した各国の主体的な判断だ。一方で、ソ連末期の1990年当時、ソ連のゴルバチョフ大統領にベーカー米国務長官が「NATOが東方へと拡大することはない」と約束したとの記録が残っている。公式文書にはされなかったが、ロシアが「約束を破られて影響圏を侵食された」と認識し、米欧に恨みを抱くのも一理はある。

ウクライナに話を戻す。既に述べた通り、クリミア半島はかつてロシア領であり、ロシア系住民が多いという事情があった。さらに半島南西部の都市セバストポリにはロシア海軍・黒海艦隊の基地もあった。ソ連崩壊後もウクライナから租借していたのである(外国軍基地の存在という点でもクリミアと沖縄は共通する)。

ウクライナに反露・親欧米路線の暫定政権が誕生し、NATO入りを目指すとなれば、当然クリミアのロシア軍基地の存在は危うくなる。プーチン政権は「クリミアにNATOの基地が置かれればロシアにとって安全保障上の重大な脅威になる」ととらえ、キエフでの政変と同時に動き出した。それが軍特殊部隊を使った電光石火のクリミア制圧である。これらは全て、後にプーチン氏自身が語ったことだ。

ロシア側の言い分は、安保上の危機感に加えて、クリミアに暮らすロシア系住民の安全を守る必要があった、というものだ。確かに、キエフの暫定政権には強い反露意識を持つ極右勢力も参加し、クリミアなどで準公用語だったロシア語の使用を制限する方針が一時打ち出された。これは暫定政権側の大きなミスだった。

クリミアでは「極右勢力が大挙して攻めてくる」といった流言も(おそらくは意図的に)広がり、ロシア系住民を中心に強い危機意識や恐怖感、怒りにあおられた人々がロシアへの編入支持に向かった。ロシアを警戒するクリミア・タタール人の多くは編入反対を訴えたが、多勢に無勢だった。こうしてロシアは軍事力と情報戦とを組み合わせ、国際社会で「侵略ではない」と強弁できるような形を一応作り上げたのである。

だが、ウクライナ側から見ればクリミア編入は侵略以外の何ものでもない。ロシアはその後、やはりロシア系住民が多いウクライナ東部にも手を伸ばした。ドネツク、ルガンスク両州の一部を支配した親露派武装勢力を傀儡として、ウクライナと事実上の戦争を続けている。死者は1万人を大きく超えている。

筆者が2017年2月にインタビューしたウクライナの初代大統領クラフチュク氏の言葉を紹介しておこう。

「ウクライナはロシアと長い国境で接しており、本来は善隣友好が望ましい。我が国の人口の二割はロシア系であり、国民の半分はロシア語を話す。古くから歴史的に関係が深い。だが、ロシアには一つだけ守るべきことがある。我々の内政に干渉しないことだ。我々はロシアに内政干渉しないし、モスクワへと軍隊を送ることもない。

ロシアは力によって我が国を服従させるのはもはや不可能と理解すべきだ。我々は最後まで戦う。全てはロシア次第だ。私たちがNATO加盟を目指すのは、ロシアが侵略国だからだ。EU入りを目指すのも、ロシアが資源エネルギーなどを道具に圧力をかけてくるからだ。他に道はない」

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