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『いだてん』は落語の知識を持って観ると、こんなに面白くなる

「遊び」がこんなにあるんです

ビートたけしは志ん生を再現できている?

大河ドラマ「いだてん」について話をしてると、「ビートたけしの落語は、あれはうまいんですか」と聞かれた。

どうやら聞きにくいらしい。まあ、しかたがない。

たけしが演じているのは「昭和の名人」の一人、古今亭志ん生だ。

志ん生は昭和43年ころからもう落語を演じなくなっているので、私はその高座をナマでは見ていない。元気だったころの志ん生を寄席で見た人は、もうそこそこのご高齢のはずである。

でもいまだに人気が高い。

たくさんの音源を残していて、CDが大量に出ている。ネタ数にして150以上あるそうだ。あまりにたくさん売られていて、なかには何を言ってるかわからないものもある。

志ん生の喋りは、もともと聞きにくいところがある。だからたけしの喋りなんかずいぶんはっきりしてるほうだけどな、とおもってしまうけど、それは落語の話であって、大河ドラマのナレーションとしては、慣れない人が多いのだろう。寄席は、そういえば、こっちから演者に近づいていって聞いてるんだったよな、とおもいだします。テレビと落語の喋りは根本から違っている。

志ん生はべつだん、そんなに落語がうまいわけではない。

ただ、おかしい。聞くと笑っちゃう。

笑えるだけではなく、声を聞いてるだけで、全身が楽しくなってくるおもしろさを備えている。そういう落語家である。

落語がうまいとか、まずいとか、そういうのを越えている。「うまい」と言われる落語は、八代桂文楽や、三遊亭圓生にまかせてたんじゃないだろうか。

でも人気だった。

ドラマ「いだてん」ではナレーション役である。

最初のころは、その志ん生に寄って、ずいぶん落語寄りの展開を見せていた。ここ最近はぐっと抑えられて、きちんとオリムピックのお話になっている。残念ではあるが、落ち着いて見られる。

 

圧倒的におもしろい落語家

志ん生は若いころは売れなかった。だから、名前を何度も改名している。いちどき講談師にもなっている。いろんなエピソードを読んでると、芸人らしくいい加減な人で(ぞろっぺい、と呼ばれる)そこが彼のおかしみにつながっている。

戦争の最末期に満州へ慰問へ行き、そのまま終戦を迎えたのでしばらく日本に帰れなかった。満州に渡ったのも、あっちではおもいっきり酒が飲めるからと聞いたので、という話になっている。一年半ほど音信がなく、昭和22年になって日本に帰ってきた。

それからブレイクする。圧倒的におもしろい落語家として大人気となった。それは満州で地獄を見たから、と単簡に説明されている。

しかし高座はやはりいい加減なところがあって、めちゃくちゃ面白い高座に当たることもあれば、肩すかしのような高座もあったらしい。愚痴を言って小咄をちょっと喋って下りるというような高座がちょいちょいあった、ということだ。

時に酒を飲んで高座にあがり、高座で寝込んでしまうこともあった。これはかなり有名なエピソードである。それも一度や二度ではなかったらしい(色川武大が、私は二回見ていると記している)。

そのへんのエピソードがドラマ「いだてん」にはいろいろ入れられていた。

高座に行く前に酒を飲もうとするのを止められ、しかし飲んじゃって高座で寝てしまい、客が「寝かせておいてやんな」と言ったというシーンが5話にあった。まあ、何というか、寄席はそういう空間なのだ。

いまでも、誰か老落語家が高座で寝たりしても、みんな何となく寝かしたまま見守る気がする(まあ言葉にしちゃうと「起きて喋ったってそんなにおもしろいわけじゃないから、寝姿みてるほうがおもしろいよ」というあたりになっちゃうんだけど)。