# 移民問題

24歳のブータン人が自殺…「移民クライシス」で日本が自壊する日

無責任国家で進む“人身売買”の末路
出井 康博 プロフィール

フクイチ事故と偽装留学生の増大はつながっていた!

「外国人労働者」をテーマに私が取材を始めたのは2007年のことだった。当時は今ほどに人手不足が叫ばれてはいなかった。翌08年には「リーマンショック」が起き、景気が悪化した。すると実習生や日系ブラジル人といった外国人労働者が減少に転じた。

外国人労働者が再び増え始めるのは、「東日本大震災」翌年の12年頃からである。増加が際立ったのが留学生だった。その背景には、前著『ルポ ニッポン絶望工場』(2016年)でも指摘したように、安倍政権が「日本再興戦略」(成長戦略)に掲げた「留学生30万人計画」がある。

福島第一原子力発電所事故の影響もあって、震災前には留学生全体の6割以上に上った中国人が日本から遠ざかり始めた。すると政府は、同計画を実現しようと、留学ビザの発給基準を大幅に緩めた。そしてアジアの貧しい国々から、出稼ぎを目的にした“偽装留学生”の流入が始まったのである。

その勢いは安倍政権下でどんどん加速し、「30万人計画」も2020年の目標を待たず達成された。

 

私たちの便利な暮らしを支える「底辺の人々」

この“偽装留学生”の構造的な問題を理解することなしには、現在、日本で進む移民クライシスの実態を捉えることはできない。

彼らは多額の留学費用を借金して来日する。日本で働けば、簡単に返せると考えてのことだ。そんな彼らを、日本はあの手この手で都合よく利用している。

偽装留学生は、外国人労働者の中でも最底辺の存在だ。借金返済のため、人手不足であっても実習生の受け入れが認められない仕事に明け暮れる。「週28時間以内」という法律の上限に違反し働いても、借金はなかなか減らない。稼いだ金を日本語学校などが学費で吸い上げるからだ。

出稼ぎの目的も果たせず、かといって借金を返し終えるまでは国にも帰れない。まさにブータン人留学生の悲劇を生んだ構造である。実習制度に関し、米国務省などは「現代の奴隷労働」と批判するが、留学生の置かれた状況の方がよほど悲惨だ。

人身売買には、「借金漬けにしたうえでの強制労働」という定義がある。偽装留学生は誰に強制されたわけでもなく、自ら借金を背負い来日する。とはいえ、借金返済のため日本人の嫌がる仕事に追われる様は、「人身売買」の犠牲者と何ら変わらない。

偽装留学生の仕事先は、たいていは夜勤の肉体労働である。コンビニやスーパーで売られる弁当や総菜の製造工場、宅配便の仕分け、ホテルの掃除……。普通に暮らしていれば目に触れない場所で、偽装留学生は私たちの「便利で安価な暮らし」を支えている。

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「なかったこと」にされた現場に潜入する

偽装留学生の流入は止む気配がない。そんな彼らが、今後は続々と日本で移民になっていく。にもかかわらず、その境遇について私たちはあまりにも知らない。

偽装留学生たちは、日本で暮らしていても日本人との関わりがほとんどない。不当な扱いや差別を受けても、日本語が不自由なため声すら上げられない。実習生をめぐる問題は頻繁に報じる新聞やテレビも、留学生には知らんぷりだ。

最も多くの偽装留学生を送り出しているのがベトナムだ。現地では何が起き、どんな人が日本に渡ってきているのか。彼らが在籍する日本語学校やアルバイト先、都会から地方へと広がり始めた受け入れ現場の実態とは。そして留学生たちは何を思い、いったいどんな暮らしをしているのか──。

実際に現地にも飛び、彼らの生の姿を追った。

実は、私が留学生問題を追うようになったきっかけは、2014年にベトナム人たちが働く新聞配達現場を取材したことだった。

都会の新聞販売所は現在、最も人手不足が深刻な職場の1つとなっている。私たちの「便利で安価な暮らし」を支えているという意味でも、新聞配達は外国人労働者の今を象徴する仕事といえる。そして偽装留学生問題が、世に知られない原因でもある。

日本人が目を背け、「なかったこと」にしてきた末端の現場を知ることなしに、この国の覆う移民クライシスの真実はわからない。

そんな現場を歩くことから、取材は始まった。