ブルックリンの北端、グリーンポイントという地域に暮らす宮川剛さんというアーティスト・デザイナーがいる。何年か前に「おもしろい人がいるよ」と友人から聞いて、グーグルに名前を打ち込むと、「ライカーズ島」が住所として出た。

ライカーズ島というのは、イースト・リバーに浮かぶ島で、未決勾留の凶悪犯とみなされる被告や、短期禁固刑の受刑者が収容される場所である。宮川さんの住所がライカーズ島として出るのは、彼が一度、この島に収容されたことがあるからだ。それを見て、2012年に日本人のアーティストがゲリラ作品を街に展示しているところを逮捕され、それが大ニュースになって「FREE TAKESHI(タケシを釈放せよ)」という運動が起きていたことを思い出した。

実際に友人付き合いを始めてみて、不当逮捕以外にもある数々のユニークなエピソードを少しずつ知った。1989年に休暇のつもりでニューヨークにやってきてこの街の魅力に取り憑かれて以来、ずっとこの地に根を張って活動していること、ブルックリン流のDIY(なんでも自分でやってみる)精神を活かした暮らしぶり、また物質的な豊かさや名声を求めない哲学……宮川さんのストーリーは、こんな時代の生き方論として示唆に富んでいる。改めてスタジオを訪ねた。今回は前編として、不当逮捕された時のことをお届けする。

(インタビュー・文/佐久間裕美子)

始まりはデザインウィークのゲリラ展示

宮川さんは、ブルックリンに大きな木工スタジオを構えている。住宅を手がけることもあるし、家具を作っていることもある。ギャラリーで個展を開くときもある。改めて、「肩書きはどうしているんですか?」と聞いてみた。

――「肩書き」という概念があまり好きではないんですが、聞かれた時は家具デザイナーやデザイナー、アーティストと答えています。家具をカスタムメイクする仕事もするし、ギャラリーで彫刻作品の展示会もする。家具とアートの中間のようなものを作っています。

逮捕されたのは2012年5月のことだった。そもそも逮捕の原因になった「作品」があった。 

――毎年5月にニューヨーク・デザイン・ウィークというイベントがあります。町中がお祭り騒ぎになるミラノ・デザイン・ウィークに比べると、ニューヨークは小規模で、小さいコンベンションセンターの中で開催される程度。

逮捕される2年前の、2010年そのウィーク期間中、ゲリラ的に無許可でLEDの椅子の照明を取り付けました。椅子の形をした光を5個作り、マンハッタンに4ヶ所、ウィリアムズバーグに1ヶ所設置。誰かに登って取られないように、椅子を設置した高さは4メートルほどでした。

NY・ブルックリンのアトリエでの宮川剛さん。右上に光っている椅子が、2010年のゲリラ照明だ

これは、ミラノのように盛り上がらないニューヨーク・デザイン・ウィークに対して、もっと面白い画期的なデザインをしよう、という僕のメッセージのつもりだったんです。それがうまくいって、知らない人に「あれは君が作った作品だったのだね」と声をかけられたりもしました。