# がん

大腸がん「ステージ4」宣告から生還した患者とその主治医の全告白

命を救ったトップドクターの決断
木野 活明 プロフィール

腹腔鏡下手術のトップドクター

2013年1月末、森山さんはクリニックの医師から紹介された杏雲堂病院の消化器外科科長の川本潤医師を尋ねた。

川本医師は、国立がんセンター東病院(千葉県柏市)の上腹部外科と下腹部骨盤外科で腹腔鏡を使って、胃がん、大腸がんを中心に腹腔鏡下手術を行ってきた。

2010年に杏雲堂病院へ移籍、これまで腹腔鏡による手術症例は500例を超える腹腔鏡下手術のプロだ。

杏雲堂病院でインタビューに答えてくれた川本医師

腹腔鏡下手術は、お腹の中に炭酸ガスを入れて膨らませ、体表皮膚に5~12ミリの穴を数カ所開け、その穴から先端にカメラの付いた腹腔鏡を入れて内部をカメラで見ながら別の穴から入れた器具で手術を行うというもの。

カメラの拡大視野効果により病巣が分かり易くなるため詳細な手術が可能になる。切除する場所が小さくて済むため術後の回復が早く、入院期間も短く手術の跡も目立ち難く生活の質(QOL)の向上につながるのが特徴だ。

ただ、回復手術に比べ直接臓器に触れながら手術ができないため、内視鏡を扱う高度な手術テクニックが必要とされる。そのため術者の外科医の技術差が手術の出来、回復状態の差を生じることは否定できない。

「うちは全手術症例の80%を腹腔鏡下で行っています。大腸がんが膀胱近くや小腸まで浸潤した、ステージⅣの進行がんも腹腔鏡下手術で行っています。

術後の腸閉塞などの合併症によるトラブルが少なく、また次の抗がん剤治療に入るまでの時間が短縮されるため、集学的治療を行う中で次の治療にスムーズにバトンタッチできるんです」(川本医師)

 

集学的治療は外科的治療、内科的治療、放射線治療、化学療法など複数の治療法を組み合わせ、それぞれの専門家によるチーム医療でより高い治療効果を上げるというものだ。

川本医師が森山さんの当時の状態をこう説明する。

「下血が止まらず貧血状態が続き、食事も取りづらいという様子でした。それでも意外と元気で顔色も悪いとは思えず、とくに痩せた様子もありませんでした。

ただ、わたしの患者さんのなかにもよくいるんです。実は重大な症状に自分で気付いているのに病院に行かず、調子がおかしいけど我慢しているという人。森山さんがこのタイプの患者でした」

PET-CTなどの検査結果で、森山さんの病状は進行したステージⅣの直腸がんと転移性肝臓がんと確定された。CT写真を見ながら説明する川本医師の話を聞き、森山さんは「これはヤバイな」とその時思ったという。

「CT写真の肝臓の右側は殆ど真っ黒で、左側も黒いカ所が見えました。川本先生は悲観的なことは言われませんでしたが、写真を見た時の先生の顔が咄嗟に強張りました。さらに説明をする先生の表情が、『これはダメだな』という顔をしているように見えたんです。妻が隣で一緒に聞きながら先生に色々質問していたようなんですが、わたしは殆ど覚えていないんです」(森山さん)

川本医師は治療方針をこう決断した。

「直腸がんが腸管を塞いでいるので、まずは食べられるように直腸がんを手術で切除し、その後、抗がん剤で肝臓のがんを小さくして切除する。術前に抗がん剤を使うネオアジュバント療法と腹腔鏡による外科手術の組み合わせを選択しました。

森山さんの肝臓がんは全体で3分の2まで埋め尽くされていたので、右葉は全摘し、左葉は半分切除することを決断しました。正常な肝臓は再生能力が旺盛で70%まで切除可能ですが、それ以上切ると肝機能が失われ肝不全になるんです」