74年経っても終わらない…硫黄島戦没者遺族の哀しき戦い

なぜDNA鑑定は進まないのか
栗原 俊雄 プロフィール

増え続ける「無縁仏」

硫黄島、龍雄さんのことに話を戻そう。戦没者の所属部隊の配置が記録に残っている。かつそこで収容された遺骨が焼かれずに保管されている。また戦没者の近い遺族、弟と妹、息子2人が生存している。長く戦没者遺骨、DNA鑑定の取材をしているが、これだけの好条件が揃うケースはきわめてまれだ。

遺骨収容を巡っては、長く根拠法がなかった。それゆえ、国はその気になればやめることができた。実際に何度もやめようとした。どれほど時間と金を費やしても、すべての遺骨を収容するのは不可能だからだろう。

たとえば2002年の『厚労白書』には、フィリピンなど南方での遺骨収容が「おおむね終了」と記された。実際には数十万の遺骨が未収容であったにもかかわらず、だ。「おおむね終了」とは、つまり「政府が収容するつもりがある遺骨については、収容はおおむね終了」ということなのだ。

 

中止を目指した政府だが、戦争体験者や遺族らの反対を受けて継続してきた。こうした中で2016年、超党派の議員立法によって戦没者遺骨収集推進法が成立した。遺骨収容を初めて「国の責務」と位置づけ、遺骨を遺族に返すことを目指している。だがせっかく苦労して遺骨を掘り起こしても、現状ではほとんどが身元不明のまま、事実上の「無縁仏」が増えていく。

さて近藤龍雄さんの遺族がDNA鑑定を求めていることと、厚労省がこれを拒んでいる経緯は、前述の毎日新聞記事が伝えた。そして冒頭に見たように、川田龍平参議院議員は、厚生労働委員会でこの問題を取り上げた。その議論に戻ろう。龍雄さんと遺族のDNA鑑定を速やかに行うよう迫る川田議員に対して、根本大臣は答えた。

「1柱でも多くのご遺骨をご遺族にお返しできるよう、記名のある遺留品や埋葬者名簿がなくても、ある程度戦没者が推定できる場合、遺族に対してDNA鑑定を呼びかける試行的取り組みを現在沖縄で行っています。しかしこれまでのところ、ご遺骨との血縁関係が認められるご遺族は見つかっておりません。南方などの戦没者遺骨のDNA鑑定は、沖縄に於ける試行的取り組みの結果を踏まえると、検討すべき課題が多いと考えています」

「ご遺族のDNAデータを国が保有することについては、DNAは究極の個人情報なので、慎重な検討が必要と考えています」

厚労省が繰り返す、DNA鑑定を拡大しない理由を改めて示したものだ。答弁書を書いているのが同省の職員であることを考えれば、当然ではある。

ただ、重ねて政治決断を迫る川田議員に対して、根本大臣は述べた。

「今年度末までに一定の方向性を示す予定であり、専門家などのご意見を聞きながら検討を行っています」

「沖縄で試行的にやっている鑑定で成果が出ていないから、多地域には拡大しない」という「方向性」なのか「成果は出ていないが、拡大する」という「方向性」なのか、注目したい。

いずれにしても、硫黄島は日本の首都・東京の一部だ。ここで遺骨収容と遺族への帰還が進まなければ、海外でのそれが進むはずがない。同法の理念を実現するためにも、非現実的な条件を撤廃し、収容された遺骨全てのDNA鑑定へと変更しなければならない。近藤龍雄さんと遺族のケースは、その第一歩だ。