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# 節約 # 労働賃金

「最低賃金の全国一律化」が日本に新たな格差を生む可能性

一度失敗してるのに…

東京と鹿児島、格差はどうか

厚生労働省の幹部が、7日の自民党議員連盟会合で業種別に全国一律の最低賃金を導入する考えに触れたとされ、波紋を広げている。

一部では「政府内で検討」と報道されたが、菅義偉官房長官は「現時点で厚生労働省として具体的な検討や調整はしていない」と否定。厚労省の担当課も「課長が個人的な意見を説明しただけで具体的な議論は進めていない」と火消しに動いた。

実際、2018年度の最低賃金は最高の東京都(時給985円)と最低の鹿児島県(時給761円)で200円以上、1・29倍の格差がある。ちなみに全国平均は時給874円だ。この差をどう調整していくべきなのか。

 

そもそも最低賃金以前に、賃金水準(月給)にも地域差がある。'17年の賃金構造基本統計調査によれば、全国平均30・4万円、東京37・8万円、鹿児島24・9万円。格差は1・52倍と、最低賃金よりも格差が大きい。

それでは、生計費(食料費、住居関係費、被服・履物費、雑費の合計)の格差はどうか。生計費は、自治体の人事委員会が地方公務員給与の改定の際に参考資料として提出している。'18年4月では1人世帯で東京15・4万円、鹿児島12・5万円。格差は1・23倍と、最低賃金(時給)の格差と近似する。

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生計費を最低賃金時間額で割ると、生計費を稼ぐために必要な最低労働時間が算出されるが、東京では156時間、鹿児島では164時間となる。丸1日分の労働時間の違いを「格差」と考えるかは評価の別れるところだが、少なくとも全国一律の最低賃金を設ければ、新たな格差が生じるのは明らかだ。

あくまで個人的な見解としても、全国一律の最低賃金を提唱した厚労省課長は、こうした事実をきちんと押さえていない人物である可能性が高い。どうやって雇用が生まれ、賃金が定められるかを理解していないと、やたらと「賃金アップ」「全国一律」といったことを主張しだすのが常だ。

本コラムでたびたび論じているとおり、主に金融緩和が雇用を創出する。これは一見、企業側が有利で労働者のためにならないと勘違いしがちだ。だが、もし金利が引き下げられれば、設備投資の増加とともに「ヒト投資」とも言える雇用が増加するから、最終的には労働者の利益にもつながる。

 

一方、最低賃金を引き上げれば人件費が上昇し、商品の値上げや人員削減などのしわ寄せがやってくる。

'10年の民主党政権では、前年比で2・4%も最低賃金を引き上げたことがあった。その結果、民主党時代に就業者数は30万人程度減少してしまった。雇用政策より賃金引き上げを先んじてしまったためと筆者は分析している。

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それでも、「全国一律」の意見は主に左派からしばしば出てくる。彼らには思いつかないアイデアを言えば、全国一律の最低賃金水準として、全国最低の県(例えば鹿児島県)に設定すればどうだろうか。

「最低賃金」なのだから、ほかの都道府県は合わせる義務はない。ただし、東京で低い賃金でこき使われる人も出てくるから、万能な策ではないと注釈しておく。

いずれにしても、雇用と賃金の関係をよく考えずに「全国一律」を唱えるのは恥を晒すだけだと、件の厚労省幹部には助言したい。

『週刊現代』2019年3月30日号より

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