説明できますか? 「ヘリウム分子」が存在しない理由

量子化学の驚くべき威力
平山 令明 プロフィール

シュレディンガーの式を分子に適用する

詳細な計算過程は省略しますが(詳しくは『はじめての量子化学』の付録をご覧ください)、水素分子の分子軌道の計算を行う(波動方程式を解く)と、2つの水素原子の原子軌道φ1およびφ2から、水素分子の分子軌道が2個求められます。このような分子軌道の求め方は「分子軌道法」と呼ばれています。

図2に示すように、この2つの分子軌道ψ1とψ2はエネルギー的に大きく異なります。

図2 矢印は電子のスピンの向きを表す

ψ1のエネルギーは元になる原子軌道のエネルギーより低く、逆にψ2のエネルギーは元になる原子軌道のエネルギーより高くなります。つまり、元の原子軌道より安定な分子軌道と、不安定な分子軌道が求められます。

それでは電子がこれらの分子軌道にどのように分布するのか、次に考えてみましょう。

いまの場合、電子は2個しかありません。1つの分子軌道にはスピンの異なる電子が2個だけ入ります。世の中はすべて安定化する方向に進みますので、2つの電子はためらわずにψ1という安定な分子軌道にスピンを逆にして入ることを望みます。

実際も図2に示すように、元の原子軌道よりエネルギーが低いψ1という分子軌道に、2つの水素原子からの電子が1個ずつ対になって入ることになり、元の1つずつの原子の状態より安定になります。H原子は1つずつ電子を出し合い、それらをψ1という分子軌道の中でペアにして共有することにより安定化しているのです。これこそ化学の教科書に出てくる「共有結合」そのものなのです。

ψ1を電子が占めると安定化し、2つのH原子はきつく結ばれ、離れ難くなります。そこでψ1のような分子軌道を「結合性分子軌道」と呼びます(図3)。

それに対し、ψ2に仮に電子が入ると、その状態のエネルギーは元の原子の状態のエネルギーより高くなるので、通常はψ2に電子が入ることはありません。もしψ2に電子が入ると、むしろ2つの原子を引き離す働きをしてしまいます。そこでψ2のことを「反結合性分子軌道」と呼びます。

図3 2つの分子軌道