説明できますか? 「ヘリウム分子」が存在しない理由

量子化学の驚くべき威力
平山 令明 プロフィール

量子力学の示す電子の軌道

水素原子は陽子1個からなる原子核と、そのまわりを回る1個の電子からできています。水素原子の電子は図1(a)のように水素原子のまわりを球状に取り囲む軌道にあります。この軌道は1s軌道と呼ばれます。

図1 水素原子から水素分子へ

AとBの水素原子が近づいていくと、図1(b)のように次第に2つの1s軌道は重なり、もっと近づくと、それぞれの電子はAとBの原子の2つの1s軌道にわたって分布するようになります(図1(c))。

私たちも広い場所を与えられると、のびのびとその広いスペースを利用するようになります。この性質は物理学の基本法則の1つです。私たちに限らず、すべての物体はのびのびとありたいのです。小学校1年生を教室の中に押し込めておくのが難しいのも、実は自然の理にかなったことなのです。

A原子の電子が存在する原子軌道をφ1で、B原子の電子が存在する原子軌道をφ2で表すと、非常に簡単なことに、2つの原子軌道を重ね合わせた全体の状態ψはそれらを単に加え合わせたもので表されることがわかっています。

式で表せば

ψ=c1φ1+c2φ2

となります。ψは2つの水素原子の間を動き回る電子の状態(波動関数)を表します。c1とc2はφ1とφ2の割合を表す係数です。

例えば、c1=1でc2=0の状態はA原子上にのみ電子が存在する場合です。つまり、c1とc2は2つの電子をどのように混ぜあわせるか、その程度を表す数字です。

φを原子軌道と言うのに対して、ψを「分子軌道」と言います。

量子力学によれば、このψは次のような式を満足するはずです。

-h28π2md2ψdx2+Uψ=Eψ

この式を波動方程式、または提案者の名前にちなんでシュレディンガーの式と言います。