2019.03.24

人気作家が婚活をテーマに「大人の恋愛」を描く話題作『傲慢と善良』

辻村深月インタビュー
辻村 深月 プロフィール

善良であるがゆえに結婚できない

―真実を探すうちに、架は、自分が「真実は善良な子」と勝手に決め込み、彼女の過去も本心も、知ろうとしていなかったことに気づきます。

架は真実を探すなかで、彼女がすべての進路を決める親の元で、言われるがままに、苦労なく育ってきたことを知ります。昔なら、そういう子は、いずれはお見合い結婚をして幸せを手に入れられたのかもしれません。ですが、いまは、悪意や打算を知らないまま、恋愛や婚活市場に放りだされる。

彼女たちは善良であるがゆえに、駆け引きができず、結果、結婚できないということになってしまう。

―「善良さ」は本書を通じたテーマです。とりわけ中盤で、ある女性が語る「現代の結婚がうまくいかない理由は、『傲慢さと善良さ』にある」というセリフはタイトルにもなっており、非常に印象的です。

 

近代イギリスの結婚事情を描いたジェーン・オースティンの『高慢と偏見』が大好きなんです。昔読んだ時は、身分ある男性はプライドが高くて高慢で、女性はそんな男性に対して偏見を抱くという話だと思っていた。ですが読み返すうちに、男女ともにお互いに対して高慢さと偏見をもっていることに気づきました。

では現代において結婚がうまくいかない理由は何だろうと考えたとき、傲慢さは変わらずあるでしょうが、それと同時に、真実がもっているような善良さもあるのではないかと思ったんです。

―はじめこそ、架=傲慢、真実=善良という図式が目立ちますが、少しずつ変化し、いつしか逆転していきます。

真実は、自信はないのに自己愛は強く、つねに、自分が傷つかないための予防線を張っている。でも、婚活で自分が選べる立場になると、傲慢さが顔を出すんです。一方、架の善良さは、言い換えれば鈍感さ。鈍感だから優しい。そこが架の良いところだとも思います。

結局、二人とも、傲慢と善良の両方を併せ持っているんですよね。これはきっと誰にもあてはまることで、だからこそ誰の中にも、大なり小なり、架と真実がいるのではないかと思います。

―架の元恋人や真実が断ったお見合い相手など、二人と結ばれなかった相手の人生が描かれる場面も読みどころです。「傲慢と善良」「地方と都会」「独身と既婚」……。様々な立場の言い分に時に共感、時に反撥し、読者は心を揺さぶられます。

彼らにも彼らの幸せがあるはずですから、それを疎かにせずに書きたいと思いました。

昔は、登場人物の誰か一人のために書く、という気持ちが強かったのですが、年を経たせいか、この小説では、誰のことも同じ距離感で書くことができたと思います。

―架と真実はどんな結末を迎えるのか? 終盤、二人の関係を〈大恋愛〉と表現するセリフが心に残ります。

最初は、架が真実より優位な立場にいたのですが、それぞれ地獄巡りのような旅を続ける中で、関係性が二転、三転していきます。でも、そうやって自分の価値観や生き方が変わることが恋愛なのではと思いました。傷つき、打ちのめされた二人がその先に何を見るのか。ぜひ小説を読んで、確かめてもらいたいです。(取材・文/砂田明子)

『週刊現代』2019年3月30日号より

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