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村上 和巳 プロフィール

麻疹ウイルスの空気感染に防御手段はなし

そして、麻疹ウイルスは細菌・ウイルスの中でも極めて感染力が強い。

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感染症の感染経路には、接触感染、飛沫感染、空気感染の3つのルートがある。後ろに行くほど感染力は強い。大抵のウイルスは、インフルエンザなどの感染力の強いウィルスであっても、飛沫感染がせいぜいで、空気感染はしない。

ところが麻疹ウイルスはこの3つの感染が全て起こる。

空気感染の威力は凄まじい。感染者と同じ車両に乗り合わせたり、同じ店内にいただけで感染してしまう。壁の上部が10数cm開いて隣り合う片方の部屋に麻疹患者が数十分入ったところ、隣の部屋にいた人が感染したケースも報告されている。

一般的に知られている感染症のうち、このように空気感染を起こすのは、麻疹以外には、結核と水痘(水ぼうそう)ぐらいだ。

まめな手洗いやマスクの着用でかなり接触感染や飛沫感染はかなり防げるが、空気感染に対しては効果はない。

しかも、結核菌、水痘ウイルスには治療薬があるが、麻疹ウイルスには治療薬がない。解熱剤や、経口・点滴での水分補給、細菌感染症を併発した場合は抗菌薬使用といった対症療法をする。あとはただ嵐が過ぎるのを待つがごとく、症状が治まるのを待つしかない。

麻疹で死亡しやすいのは1歳未満の乳幼児や高齢者、免疫力がもともと弱い人などと言われているが、それ以外でも死亡例は報告されている。極端な言い方をすれば、麻疹に感染したら、「死」のくじを引くかは運次第である。

 

唯一の麻疹対策はワクチン接種のみ

結局、麻疹に対する唯一かつ有効な対策は、ワクチンでの予防のみだ。

日本では1978年に麻疹ワクチンが法令に基づく定期接種となり、1~6歳までの幼児期に1回接種していた。それでも年間に数万人から数十万人が感染していた。

そして2006年にこれが2回接種へと変更された。1回接種では麻疹ウイルスへの抗体ができにくい人がいることや、接種からの時間の経過とともに体内の抗体レベルが下がってしまう人がいると分かったからだ。

現在ではワクチンを2回接種すれば97~99%の人に抗体ができることがわかっている。実際、2009年以降、日本の感染者数はかなり減少している。

ワクチン接種では副作用(副反応)を気にする人も少なくない。麻疹ワクチンの場合は、生きた麻疹ウイルスの毒性を弱めた「生ワクチン」が使われるため、接種後に2~3割の人に発熱、1割弱の人に発疹といった麻疹と同様の症状が起こることがある。ただ、これらは一過性でおさまる。

過去でも現在でも麻疹は「罹ってしまえばいい」という人が一部にいるが、これは想定されるリスクから考えれば、極めて無責任な考えである。

そもそもワクチンに含まれているウイルスは毒性を弱めたものであり、逆に言えばワクチンが原因の発熱や発疹という麻疹症状が出る人は、通常の麻疹ウイルスに感染した場合はかなり重症になる可能性があると考えるべきである。また、ワクチンが原因の麻疹で死亡したケース、別の人に感染したケースの報告はほぼない。

ただし、現在の20代後半より上の世代は1回接種または接種していないため、麻疹ウイルスに対して十分な抗体を持っていない可能性がある。まさに社会的な活動も活発で、家庭を持ち始める世代でもある。これから、妊娠、出産をする人も多いはずだ。

まずは麻疹ウイルスに対する抗体の有無を調べるという方法もあるが、自治体による抗体検査補助は風疹ほど行われていないため、過去に麻疹に罹ったことがないのであれば、むしろワクチン接種を受けておいた方が無難だ。