HIS澤田会長が巻き込まれた「50億円詐欺事件」の深層

「リクルート株投資話」がはじまり

民事刑事で告訴

澤田秀雄氏(68)が、日本を代表する経営者であることは論を俟たない。

旅行代理店大手のエイチ・アイ・エス(HIS)と、金融持ち株会社の澤田ホールディングス(澤田HD)の代表を務める一方、経営不振のテーマパーク・ハウステンボス(長崎県佐世保市)の社長となってV字回復を実現、軌道に乗せた。

HISと澤田HDは上場会社で、ハウステンボスも2月末、東証上場へ向けて準備を進めていることを公表。西独留学後、世界50数ヵ国を放浪、80年にHISを立ち上げた澤田氏は一代で「旅」とそれにまつわるサービスを備えた複合企業体の長になった。

それだけに、というべきか。澤田氏は、「リクルート株50億円投資」と、それが詐欺話だったとして訴えている件について、真摯に語るべきだろう。

私は、今年に入ってこの情報を入手した。2月以降、取材を進め、澤田グループ全体の問題であることを認識。澤田HD、HIS、ハウステンボスへの取材依頼を繰り返してきたが、現在までのところ、「個別の取引に関するご質問にはお答えしかねる」という回答しか得ていない。

強調すべきは、これは50億円という途方もない資金が収奪された事件であること、その被害者が澤田氏とその窓口となった金取引商であり、民事刑事で告訴していること、今後、多方面に広がる可能性があることだ。

つまり「個別の取引」に終わるものではなく、広く問題提起するに相応しい事件であることを強調して話を進めたい。

 

「事件」の始まり

はじまりは、ロボットを案内係にしたホテルなど、斬新な発想でハウステンボスを黒字にした澤田氏が、仮想通貨がブームとなっていた17年、ハウステンボス内で通用する電子通貨「テンボスコイン」を考案、年末から実証実験を開始したことだった。

この時、「金本位制」ではないが、テンボスコインを「同等の金に裏付けられているシステム」とするために、1トン(約50億円相当)の金を購入した。同時に、購入総額約8億円分の金で埋め尽くした「黄金の館」をオープンしている。

その金の輸入に功績があったのが、福岡市と香港を拠点に金取引を行なうアジアコインオークションの石川雄太氏(28)だった。大学時代、ドラフトにかかりそうな有望な野球選手だったが、肩を壊して断念。「何でも見てやろう」と、海外旅行を重ねた末、金取引の世界に飛び込んだ。

体育会気質で実直なのにベンチャー精神もある石川氏に自分の青年期を重ねたのか、石川氏を気に入った澤田氏は、自身の資産運用を委ねる一方、ハウステンボス事業にも参加させたという。

その石川氏に、リクルート株投資の話が持ち込まれたのは、18年2月だった。それを信じて50億円を投じ、詐取されるのは同年5月から7月にかけてで、石川氏は昨年11月27日、58億3000万円の支払いを求めて東京地裁に民事提訴。同日、警視庁捜査2課に告訴状を提出している。

民事訴訟は、3月14日、第1回の期日が入り、公判が始まった。被告は8人。数が多いのは3段階に分けられて詐取が実行され、事件が複雑に入り組んでいるためだ。そこで、訴状に添う形で、事件を再構成しよう。